日産証券CXレポート

金、上昇基調は変わらず

 

 2017年6月19日(月)
(株)資源・食糧問題研究所
代表 柴田明夫

レンジ相場が続く

金は、1オンス=1250~1300ドルでのレンジ相場にある。ニューヨーク金価格は、6月6日に一時1298ドルまで上昇し、4月17日に付けた1294ドルを超え、昨年11月に付けた1300ドルの節目を試す格好となった(図1)。

低調な米雇用統計を受け、米国での追加利上げ観測が後退したのに加え、ロンドンで起こったテロが投資家をリスク回避に向かわせた。米労働省が2日に発表した5月の雇用統計では、失業率は4.3%に低下した一方、非農業部門就業者数が前月比13.8万人増に止まり、事前予想の18.5万人増を大きく下回った。

この結果、米連邦準備理事会(FRB)が13~14日開催予定の米連銀公開市場(FOMC)での追加利上げが見送られるとの見方が浮上した。しかし、注目されたFOMCでは、政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標が0.25%引き上げられ1.0~1.25%となった(図2)

3月に続く追加利上げは市場の予想通りだったものの、同時に発表されたFOMCメンバーの経済見通しが上方修正され、2017年末のFF金利予測の中央値が1.4%に据え置かれた。

FRBの金融引き締め姿勢が上値を圧迫

「0.25%ずつ追加利上げを行う」とすると、年内にあと1回の利上げが想定され、予想よりも「タカ派」寄りの内容だったことを示唆し、金利のつかない金にとっては弱材料となる。実際、声明発表後、金は1250ドル台まで急落した。

さらに、イエレン議長が金融正常化の一環として9月にも資産(バランスシート)の縮小に着手する可能性を示したことも、今後、金の上値圧迫要因になりそうだ。

具体的には、これまで量的質的金融緩和策として、「FRBが市中から購入してきた米国債やモーゲジ担保証券(MBS)の償還資金の再投資縮小を通じて、資産縮小を進める」というものだ。

例えば、米国債については、月当りの再投資見送り額を当初60億ドル(6600億円)に設定。その後、3カ月ごとに月額300億ドルに達するまで、1年かけ、60億ドルずつ再投資見送り額を増やす方針だ。結果として、米国債に売り圧力が強まれば、金利が上昇し、金にとっては強烈な売り材料となる。このため、金にとって1300ドルの節目が一段と重くなりそうだ。

2つのリスクが浮上

一方、1250ドル前後での下値も固そうだ。確かに、フランス大統領選、北朝鮮のミサイル兆発、米トランプ政権のロシア疑惑(ロシアゲート)でのFBIコミー前長官の議会承認、イラン大統領選挙での保守穏健派ロウハニ現大統領の圧勝―など、これまで懸念された政治リスク、地政学リスクは後退した。

しかし、6月に入って中東で新たなリスクが台頭している。1つは、治安は万全といわれたイランの首都テヘランで「ホームグローン」テロが発生したこと。イランにとっては、シリアやイラクのIS(イスラム国)叩きを支援すれば、自国はテロ攻撃を受けないとの基本戦略が崩れた。

しかも、サウジアラビアのムハンマド副皇太子が5月、インタビューに答えるなかでイラン批判を展開。「我々はサウジ国内ではなく、イラン国内で戦いが起きるように動く」と語っていることから、何らかのサウジの関与も疑われている。

下値を支える要因に

もう1つは、サウジアラビア、UAE、エジプト、イエメン、バーレーンのアラブ諸国が6月5日、イスラム過激派などテロリストを支援しているとしてカタールとの国交断絶に踏み切ったことだ。

サウジ、UAEの各港では、カタール船籍の船舶の入港を禁じた。「アラブ諸国によるイラン包囲網」の構築を模索する米トランプ政権にとって、アラブ諸国内での亀裂は「イラン・シリア・カタール」の結束を強めることになりかねない。

これら中東地政学リスクの台頭は、今のところ金の買い材料になっていないが、1250ドルでの下値を支える要因となることは間違いあるまい。金の上昇トレンドは崩れていない。

図1
チャート
(出所)NYMEXより筆者作成


図2
チャート
(出所)米商務省より筆者作成

《執筆者紹介》

柴田明夫(しばたあきお)
資源・食糧問題研究所代表 1976年東京大学農学部卒。同年丸紅入社。鉄鋼第一本部、調査部等を経て、2002年に丸紅経済研究所主席研究員。同副所長を経て、2006年同所長。2010年同代表。2011年に資源・食糧問題研究所を設立、代表に就任。<主な著書>『食料争奪』(日本経済新聞出版社)、『水戦争』(角川SSC新書)。

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