日産証券CXレポート

NY金先物は今週にも年初来高値更新にトライ

 

 2017年6月5日(月)
金融・貴金属アナリスト
亀井 幸一郎

先週末6月2日のNY金先物価格は、前日比10.1ドル高の1280.20ドルで取引を終了。週間ベースでは4週連続の上昇となった。水準としては4月23日に第1回の投票が行われたフランス大統領選前に戻ったことになる。つまり欧州の政治リスクが指摘されていた際の水準まで戻った。

ちなみに年初来高値は4月17日の1297.4ドルで、終値ベースでは翌18日の1294.10ドルとなる。そこから終値ベースで5月9日の1216.10ドルまで下げた相場が、反転し、6月2日は1280ドル台に乗せ、戻り高値をさらに更新した。

弱気、強気、2つの要因がせめぎ合う

足元の金市場は、価格の方向性を決める2つの逆方向の綱引き状態にある。ひとつは、超緩和策の終了に向け坦々と利上げを進めようとするFRB(連邦準備理事会)の金融政策で、こちらは金利を生まない金の売り要因となる。もうひとつは、大きくは地政学リスクに含まれる欧米の政治リスクで、不透明な環境に対するヘッジ目的の金買いを促し、買い要因となる。

この1ヵ月半ほどのNY金先物価格は、上昇と下落そして反発と、それぞれ一定の流れが持続する展開となっている。5月に入ってからの金市場は、欧州で今年上半期最大の注目事項でリスク要因ともなっていたフランスの大統領選が、波乱なく終わったことで調整局面入りの様相を濃くしていた。

実はフランス大統領選でもっとも懸念が高まったのは、1次投票が行われた4月23日の直前だった。選挙終盤に極左政党のメランション候補が支持率を伸ばし、混戦模様となり、選挙結果が見通せなくなったことによる。

支持率が割れた結果、「決選投票にEU(欧州連合)擁護派の候補が残らないのでは」との懸念が高まった。政治リスクへの警戒の中で金は年初来高値を更新し、1297.4ドルまで買われた。しかし、1300ドル大台乗せは起こらなかった。冒頭でも触れた4月17日のことである。

一次投票で懸念解消

その注目の1次投票で、市場の懸念は解消される。EU擁護派のマクロン候補が決選投票に残ったこと、反EUの極右政党・国民戦線党首のルペン候補が決選投票に進んだものの得票率が支持率並みにとどまったことによる。市場が恐れた“隠れルペン支持者”の存在は、恐れるほどではなかった。

金市場では、5月7日の決選投票を待たずにこの段階から先物市場でのファンドの買い建て(ロング)の手仕舞い売りが膨らんだ。さらに5月3日のFOMC(連邦公開市場委員会)で、声明文が1~3月期に見られた経済指標の減速は「一時的」として、先行きの景気に強気の見通しを示したこともファンドの売りを促した。次回6月の追加利上げ観測を高め金の下げに拍車をかけた。

こうして7日のフランス大統領選が終わった直後の5月9日には金は1214.3ドルまで売り込まれた。この時点では、本年前半の山場が終了という空気が金市場を覆っていた。FRB(連邦準備理事会)の利上げ観測が高まる中で、NY金先物価格は、傾向的にはさらに下値を探る展開が想定されていた。

政治リスク相場の延長戦に

ところが皮肉にも、この安値を記録した5月9日が、金市場にとって反発への転換点となった。欧州の政治リスクが鎮静化する一方で、米国でにわかにリスクの火の手が上がった。それが現地時間9日の夕刻に伝えられたトランプ大統領によるコミー前FRB(連邦捜査局)長官の電撃解任である。

現地5月16日の夕刻に、米紙NYタイムズが、トランプ大統領が、3月にコミー前FBI長官と会談した際に、辞任したフリン前補佐官への捜査を暗に終了するよう促したことを記したメモの存在を報道したこともリスクを上乗せ。

大統領の行動に、連邦法上の重罪となる「司法妨害」の疑いが掛ったことが、金市場ではファンドにフランス大統領選1次投票以降のスタンスを変えさせることになった。途中で加わったFRBの利上げ観測の高まりもあり、買い建て(ロング)の手仕舞い売りを続け、比較的高水準の売り建て(ショート、5月16日時点で295トン)を維持していたファンドが、一転してロングの再構築、ショートの手じまい買戻し(ショート・カバー)に向かった。

行して5月9日を起点に6営業日連騰となり1250ドルを超えた金先物価格だったが、さすがに売りが控え上昇ピッチは鈍った。しかし、ここでの売りもすぐにこなすことになった。トランプ大統領最側近で娘婿でもあるクシュナー大統領上級顧問が、FBIの捜査対象となっていることが判明したことによる。いわゆる「ロシア・ゲート」の捜査の手が本丸に迫っているわけで、政治リスクはさらに高まった。

この問題は、現在も進行中で、渦中のコミー前FBI長官は6月8日米東部時間の午前10時(日本時間8日午後11時)から上院情報特別委員会で、ロシアの米大統領選への介入疑惑などに関する証言を行うことが決定している。トランプ大統領はそれを阻止する方策を検討中とされるが、いくつかの判例から阻止は難しいようだ。証言内容如何では、政治リスクは更に高まり、金価格は4月17日の年初来高値にトライする場面が見られそうだ。

問題は加速しない賃金上昇率

冒頭で触れたように、先週末に発表された5月の米雇用統計の結果が、このところの戻り高値の更新を促すことになった。まず失業率が4.3%と2001年5月以来16年ぶりの低水準となり労働市場の力強さを証明した。一方、前月比での雇用者増加数は市場予想18.2万人に対し13.8万人と大きく下振れし、市場に失望感が漂った。

この結果は、複雑だ。まず来週のFOMC(連邦公開市場委員会)での追加利上げは間違いないだろう。完全雇用状態を示すとされる4.7%を下回る失業率は過熱を表し、その下で雇用の増加も7.5~12.5万人規模で十分(イエレン議長)との見方もあり、雇用増の下振れは問題ない。ただ、市場が注目したのは、この中で賃金上昇率が一向に加速しないことだった。平均賃金上昇率は前年比で2.5%と市場が求める3%超には届かず、実質的には前月より低下していた。FRB内部でも危惧する声のある、2%超えに向けて高まらないインフレ率の問題と整合性のある結果といえた。

市場では、6月はともかく、その先9月さらに年末12月の追加利上げを軸とする出口模索の道筋に疑念が生まれ、週末の市場ではドルが売られ、長期金利は昨年の大統領選前の水準に低下し、金が買われ1280ドル台に乗せてきた。

今週は8日に、先に触れたコミー前FRB長官の証言に加え、英国の総選挙、さらに欧州中銀(ECB)の政策理事会が予定されている。内容いかんによりドル相場に影響を与え、金価格を刺激することになると思われる。今週中にでもNY金先物価格は、年初来高値の更新にトライすることになりそうだ。

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《執筆者紹介》

亀井幸一郎(かめいこういちろう)
マーケット ストラテジィ インスティチュート代表取締役、金融・貴金属アナリスト、1979年中央大学法学部法律学科卒業。山一證券に8年間勤務後、1987年投資顧問会社で日本初のFP会社でもあるMMI入社。1992年ワールド ゴールド カウンシル(WGC/本部ロンドン入社。企画調査部長として経済調査、世界の金情報の収集、マーケット分析、市場調査に従事。2002年現職。「急騰前に金を買いなさい」(廣済堂出版)など。

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