日産証券CXレポート

常態化した金とプラチナの価格差逆転現象

 

 2017年5月8日(月)
金融・貴金属アナリスト
亀井 幸一郎

以前は「プラチナ価格が金を上回る」のが一般的だった。しかし、このところ逆転現象が起こり、しかも長期化している。背景は、2つのメタルの市場規模と需要構造の違いから生まれた投資環境の変化に対する反応の違いにある。価格差の変動はあっても、金がプラチナ価格を上回る傾向は当面続きそうだ。

拡大するプラチナと金の価格差

年始からここまで、欧州での選挙や米軍によるシリア攻撃や北朝鮮情勢など地政学リスクに強い資産として金が買われ、4月の中旬には1300ドル近辺に接近するところまで買われた(グラフ参照)。その中で注目されているのが、金とプラチナの価格差が拡大していることだ。

先週末5月5日の時点では、NY市場の先物価格中心限月の終値比較で金がプラチナを1トロイオンス(31.1035グラム)当たり316.7ドル上回る状態にある。年初は217.8ドルだったので、この4ヵ月で100ドルほど価格差が拡大している。 日本が連休中だった5月3日には、その差は344.1ドルまで開く場面があった。昨年10月24日の324.6ドル以来の大きさだが、同時に過去最大の値幅となった昨年6月27日の345.5ドルに迫るものでもある。

金を大きく上回っていたプラチナ

以前は一般的には金よりプラチナの方が高いのが普通だった。時に金価格が上回ることはあっても小幅で、それも短日月で解消されていた。プラチナが過去最高値を記録したのは2008年3月5日でNY先物取引の終値で2276.1ドルだった。

世界最大の生産地である南アフリカで電力不足により鉱山生産が止まることが懸念され、ファンドの投機的な買いで価格が急騰したことによる。折しも資源の“爆食い”と表現された中国を代表とする天然資源に対する新興国需要の高まりの中で、世界的にコモディティ投資ブームが巻き起こっているタイミングでもあった。

この時、プラチナは金より1300ドルも高かった。これほどの価格差は例外的だが、2011年8月までは、ほぼプラチナが金を上回る状態が続いていた。それ以降、逆転現象が見られ始め、2015年1月中旬以降はここまで金が上回る状態が続き常態化している。

2つのメタルの市場規模、需給構造の違い

なぜこのような状態になっているのだろうか。その答えは、2つのメタルの市場規模の違いと需給構造の違いにある。そもそもプラチナの市場規模は金に比べ小さい。年間の生産量は金が3158㌧(2015年以下同じ)、プラチナが192㌧、総需要は金が4124㌧、プラチナが237㌧とおおむねプラチナは金の17分の1程度となる。NY市場の取引規模もプラチナは金の14分の1となる。

この意味するところは、市場の流動性の違いにある。市場規模が小さいためプラチナはまとまった取引の受け皿にならない。さらに、プラチナの需要の60%が工業用で中でもディーゼル車の排気ガス浄化装置に使われるという特徴がある。リングなど宝飾用は30%程度でしかない。つまり、プラチナの価格は自動車や宝飾品などの売れ行き、景気に左右される度合いが大きいといえる。

さらに2010年を境に、金市場には中国やロシアを中心に新興国中銀による金購入が活発化したこともある。「外貨準備として金保有を増やそう」という動きで、年間400~500トンにも上った。いまなお通貨性を認められている金ならではのことで、こうした買いはコモディティ(商品)=素材としての側面の強いプラチナにはない。

ここからは価格差縮小の動きも

ならば、2015年以降、金が上回ることが常態化している背景は何か。それは投資環境の変化を受け、金がリスク回避の投資需要の受け皿になっていることがある。

2015年は、原油価格の値下がりが注目を集め、夏には中国人民元相場の大幅切り下げから上海株式の急落など中国への懸念が高まり、それは2016年前半まで続くことになった。

その2016年は、6月の英国のEU(欧州連合離脱、Brexit)に加え、米大統領選でのトランプ旋風と想定外の出来事が続き、市場も荒れることになったのは記憶に新しい。政治的リスクが、金の買い材料として浮上することになった。

伝統的にリスク回避を目的に金は買われるが、プラチナにはそうした目的での買いはない。繰り返しになるが、ここまで欧米の政治リスクや北朝鮮情勢など不確実性が金市場への資金流入を促す傾向が続いてきた。一方で、実需動向が価格変動のメインの材料となるプラチナには、むしろそうしたリスクはマイナス要因となる。

その結果、値動きの方向性という点でプラチナは金に連動はするものの、上昇率に差が生まれ価格差の拡大につながっている。市場環境から考えて、こうした傾向は当分続くと思われる。ただし、こうした流れの中でも波動があるわけで、5月3日の価格差344.1ドルは、プラチナが売られ過ぎの感が強く、ここまでの傾向からは250ドル程度までいったんは縮小に向かうことになりそうだ。

グラフ
チャート

《執筆者紹介》

亀井 幸一郎(かめいこういちろう)
マーケット ストラテジィ インスティチュート代表取締役、金融・貴金属アナリスト、1979年中央大学法学部法律学科卒業。山一證券に8年間勤務後、1987年投資顧問会社で日本初のFP会社でもあるMMI入社。1992年ワールド ゴールド カウンシル(WGC/本部ロンドン入社。企画調査部長として経済調査、世界の金情報の収集、マーケット分析、市場調査に従事。2002年現職。「急騰前に金を買いなさい」(廣済堂出版)など

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