日産証券CXレポート

金、1300ドルの攻防戦へ

 

 2017年4月24日(月)
(株)資源・食糧問題研究所
代表 柴田明夫

ニューヨークの金価格が、昨年11月以来の1オンス=1300ドルを試す動きにある(図1)。3月末から4月初めにかけて1250ドルを挟み膠着状態にあった金は、4月12日に1278ドルに急騰。17日には1292ドルの年初来高値を付けた。金価格を上抜けさせた要因は主に以下の2つにある。

遅れそうな追加利上げペース

トランプ大統領のドル高をけん制する発言により、米連邦準備制度理事会(FRB)の追加利上げのペースが遅れるとの見方が広がったことだ。FRBは3月15日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で昨年12月以来、3カ月ぶりに0.25%の利上げを決定。政策(FF)金利の誘導目標は0.75~1.00%に上昇した。金利上昇はドル高を促すので金価格の上値圧迫要因だが、トランプ氏が12日、「ドル高を促すFRBの利上げ路線に賛同しない」考えを示したことから、市場では年内4回と見られていた追加利上げが、「年内残り2回」との見方に変わった。

確かに、金利の急速な上昇=ドル高は利払いを激増させることになるため、2兆ドル近い連邦債務残高を抱えるトランプ政権にとっては致命症になりかねない(図2)。中国についても、トランプ氏は「(人民元安・ドル高の)為替操作国ではない」と発言し、早々と公約を撤回したことで市場でのドル高警戒心を薄める形となっている。

高まる地政学リスク

緊迫化するシリア、北朝鮮情勢に加え、原油市場を含む地政学リスクの高まりも金にとって強材料だ。WTI原油価格は4月に入り1バレル=50ドル台を回復したが、21日には再び49ドル台まで売られるなど、改めて上値の重さが確認された格好となっている。

米国での石油在庫の増加やシェールオイルの生産増が直接の売り要因だが、真の問題は原油価格の低迷が混迷する世界情勢を一段と不安定化させることだ。ベーカー・ヒューズ社によるとシェールオイル・ガスのリグ稼働数は4月13日時点で847基となり、12週連続で増加している。原油に下振れリスクが高まれば、金に対する投機マネーのリスク回避需要は高まる。

今世紀に入って、石油と地政学リスクの関係は一段と強まった。石油メジャーにとって、石油埋蔵量は投資家に対して開示する最も重要な資産である。石油メジャーは、生産した石油の量を新たな埋蔵量としてリプレース(補てん)していかなければならない。しかし、世界には従来のような安価な石油資源は少なくなり、リプレースのフロンティアが深海油田や最貧国での開発など、地政学リスクの高い場所へと移っているためだ。

油価上昇は押し上げ要因

さらに気候変動・地球温暖化が鮮明になり、石油をはじめとする化石燃料の無尽蔵な消費を抑制せざるを得なくなったことで、非在来型石油資源の多くが座礁資源(埋蔵量が確認されていても使用することのできない資源)化してしまう恐れが出てきた。ただ、「アメリカファースト」を標榜するトランプ政権は、「温暖化はねつ造」との立場であり、自国エネルギー産業の強化を目指し、シェールオイル・ガス、石炭の開発を促進させるようとしている。

しかし、シェールオイルを増産すれば原油の下げ圧力が強まりエクソンモービルなど石油メジャーにとっては痛し痒しだ。この点、中東情勢が緊迫化し原油価格が上昇すれば、増産と高い油価の二兎を得ることができる。また金にとっても、油価上昇は、インフレ圧力を高めることから強力な押し上げ要因となる。

(図1)

チャート

(図2)

チャート

《執筆者紹介》

柴田明夫(しばたあきお)
資源・食糧問題研究所代表 1976年東京大学農学部卒。同年丸紅入社。鉄鋼第一本部、調査部等を経て、2002年に丸紅経済研究所主席研究員。同副所長を経て、2006年同所長。2010年同代表。2011年に資源・食糧問題研究所を設立、代表に就任。<主な著書>『食料争奪』(日本経済新聞出版社)、『水戦争』(角川SSC新書)。

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