日産証券CXレポート

米軍のシリアミサイル攻撃と金価格

 

 2017年4月10日(月)
金融・貴金属アナリスト
亀井 幸一郎

シリア攻撃も陣容の固まっていない米国防総省

ペルシャ湾に展開中の駆逐艦からシリア領内にトマホーク59発による攻撃。4月6日の米東部時間夜、米中首脳会談中(ディナー中)の出来事で、終了後にトランプ大統領がシリア攻撃についての記者会見を行った。シリアへの米側のスタンスは前政権とは変わったとみられたが、これほど早く動き出したのはまさにサプライズだった。

というのも、トランプ政権では、まだすべての閣僚の承認は終わっておらず、特に、足元の国防総省ではマティス国防長官以外の主要な幹部約50人の政治任用が進まず、空席になっているからだ。本来であれば幹部職員の指示にしたがって働く職員が、その職務を代行し、政策を切り盛りしているとされる。こうした体制の下で強行された攻撃ゆえに、大きな戦略の下での行動とは捉えられない。

国内向けに前政権との違いを示したトランプ政権

米国は、国際合意抜きで戦端を切って、後に混乱を招いたイラク戦争の前例があるだけに、オバマ前政権では慎重なスタンスを取った。2013年8月に、同じシリアに対し化学兵器の使用を理由に人道的見地から一度は空爆を決意し、英国からも同意を取り付けたオバマ大統領だったが、その後、この決断を撤回したことがあった。

議会に実行の可否の伺いを立てて否定されるということもあり、“米国大統領の決断” の権威を落としたと共和党保守派のみならず、広く非難の声が高まる一幕もあった。

こうした経緯から、ここまでオバマ前政権の政策の全否定ともうかがえる一連の大統領令や政治公約からすると、やはり今回の攻撃は、オバマ政権との色合いの違いを強烈に印象づけるというインセンティブが、トランプ大統領自身の決断に大きく作用したのだろう。この攻撃が中東情勢に一石を投じたのは間違いないが、繰り返しになるが、この点でも大きな戦略を描いた上でのものではなく、むしろ単発の攻撃とみられる。

中国への牽制も意図

北朝鮮問題も主要テーマとなった米中会談において、北朝鮮の説得工作に積極的に動こうとしない中国側への牽制という意味合いの非常に強いイベントになったのも事実である。トランプ大統領は4月3日付の英フィナンシャル・タイムズ紙のインタビューに応え、「中国が動かなければ単独行動も辞さず」と事前に布石を打っていたが、時系列ではシリア問題はそこに偶然滑り込むことになり、結果的に、中国サイドに“力の外交”を示しプレッシャーをかけることになった。

このこともシリア攻撃決断のインセンティブとして働いたのは間違いなかろう。40%割れと、この時期としては過去最低水準まで支持率が落ちているトランプ政権。支持率低下の中で、外に軍事攻勢をかけるやり方は、ブッシュ政権など過去にも見られたものでもある。

有事反応で金は一時1270ドル突破

先週末の一連の動きに対する金市場の反応は、急騰だった。シリア攻撃が明らかになったのは7日のアジア時間の午前の話。1250ドル近辺で滞留していた金は1270ドル台まで駆け上がり、2月27日に記録していた1264.90ドルの年初来高値を更新した。いわゆる「有事の金」と呼ばれる典型的な反応だが、一般的に“有事の金高”は長続きしないのが経験則の教えるところでもある(グラフ参照)。

実際に、週末7日のニューヨーク・コメックスの金先物価格は、アジアの時間帯に記録した水準を超えて1273.30ドルまで上値を見たものの、この水準を維持できず、買いが一巡すると値を消した。7日のコメックス先物価格の通常取引の終値は、1257.30ドルといわゆる“行って来い”状態となった。

政治リスクは持続し金価格を刺激

ただ、足元の金市場のサポート要因が、今月23日に第一回の投票が行われるフランス大統領選をはじめとする米国内外の複合的な政治リスクになっているだけに、さらに不安定要因が加わったことになる。したがって、今回の有事反応での突発高は直ぐに止んだとしても、不安定な政治環境を印象付けたこと間違いない。金融市場は警戒モードを解くことは出来ず、金は1300ドル方向に向け堅調に推移するとみられる。蛇足ながら、北朝鮮に対する米国側の行動には要注意と思われる。

(図)
チャート

《執筆者紹介》

亀井 幸一郎(かめいこういちろう)br> マーケット ストラテジィ インスティチュート代表取締役、金融・貴金属アナリスト、1979年中央大学法学部法律学科卒業。山一證券に8年間勤務後、1987年投資顧問会社で日本初のFP会社でもあるMMI入社。1992年ワールド ゴールド カウンシル(WGC/本部ロンドン入社。企画調査部長として経済調査、世界の金情報の収集、マーケット分析、市場調査に従事。2002年現職。「急騰前に金を買いなさい」(廣済堂出版)など。

【免責事項】

「週刊日産証券C X レポート」( 以下、本情報と略記) は、株式会社市場経済研究所が提供する一定の条件の下で執筆者が作成したレポートです。

利用者は、本情報を利用者ご自身でのみご覧いただくものとし、ご自身の判断と責任においてご利用ください。本情報は一定の情報を提供するものに過ぎず、特定の銘柄、金融商品、商品価格などについての投資・購買に関する助言や勧誘を目的としたものではありません。また、市場経済研究所は、投資助言・代理業を一切行っておりません。

利用者は、本情報に関して、第三者への提供や再配信、再配布、独自に加工すること、複写もしくは加工・印刷したものを第三者に譲渡または使用させることはできません。また、本情報のウェブページへのリンクは禁止します。その他、市場経済研究所が適当でないと判断する行為をした場合には、利用を停止させて頂くことがあります。

本情報の利用にあたり、利用者が故意または過失により、市場経済研究所および当該執筆者に対して、何らかの損害を与えた場合には、市場経済研究所等は損害賠償請求をすることがあります。

レポート
TOPへ