日産証券CXレポート

弱気になれない金の事情

 

 2017年3月27日(月)
(株)資源・食糧問題研究所
代表 柴田明夫

ニューヨーク金は、3月前半と後半で対称的な値動きとなった。2月27日に1オンス=1263㌦と昨年11月中旬以来、3カ月半ぶりの高値を付けた金は、3月に入って急反落、10日には1196㌦と再び節目の1200㌦を割り込んだ。

しかし、後半に入ると急反転し、再び1250㌦をにらむ動きとなるなど、前半の下げ幅をほぼ取り戻した(図1)。この間、金は金利、株価、原油という材料に対して、売り買い異なった反応をした形となった。

早期利上げ姿勢が圧迫材料に

1つは、米連邦準備制度理事会(FRB)の追加利上げを巡る思惑である。3月14~15日の米連邦公開市場委員会(FOMC)を前に、FRBのパウエル理事やニューヨーク地区連銀のダドリー総裁など複数の当局者が、早期利上げ(ドル高)に前向きの姿勢を示したことから、ドル建て金相場の圧迫材料となった。

なお、FOMCでは3カ月ぶりの追加利上げ(政策金利0.25%)が決まったものの、市場が注目していた声明では、年内の利上げ回数を従来通り3回に据え置いた。市場は米国経済の好調さから利上げは年内4回と見ていたことから、ドル売りが加速し、金が買い戻された。

NY株下落で買い戻し

2つ目は、ニューヨーク(NY)ダウ工業株30種平均株価の動きである。昨年12月から1月にかけてNYダウは、新政権の経済政策への期待から2万㌦の史上最高値圏で推移していたものの、市場には高値警戒感もあった。

これを払拭したのが、トランプ大統領が2月28日に初めて臨んだ議会演説だ。「米国精神の再生」を呼び掛ける穏健な内容となり、市場に安堵感が広がると、NYダウは騰勢を強め、3月2日には2万1129㌦の史上最高値を付けた。市場がリスクオン(積極的にリスクを採る)になり株価が上昇するなか、金に売り圧力が強まった。

しかし、その後、NYダウは軟調に推移し、3月21日には前日比237㌦の政権発足後最大の下げを演じたことから、逆に金は買い戻された。トランプ大統領は、前オバマ政権の医療保険制度改革(オバマケア)の改廃を目指しているものの、議会との調整が難航。他の政策の実行も遅れるとの見方が広がったためだ。

崩れつつある原油不足シナリオ

3つ目は、WTI原油価格が3月に入り急落し、3カ月ぶりに1バレル=50㌦を割り込んだことだ(図2)。背景には需給バランスに対する懐疑がある。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非OPECは、1~6月について各日量120万バレル、60万バレルの協調減産に合意。国際エネルギー機関(IEA)がOPECの減産について90%超順守されていると発表したことが市場で好感され、WTIは50台半ばまで上昇していた。減産が継続すれば供給過剰が解消され、17年末には日量100万バレル程度の供給不足が発生すると見られていたためだ。

しかし、①サウジアラビアが自己申告した2月の産油量が日量1001万バレルと、OPECの月報で伝えられた生産量(同979万バレル)を上回った、②米シェールオイルの生産量回復が続いている、③17年下半期の減産継続も懐疑的だ―などから供給不足発生シナリオが崩れつつある。

1300㌦を目指す展開は不変

OPECは次回5月25日の総会で減産延期の是非を決定する予定だが、サウジのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相は今年早々、「延長の必要はない」と発言。イランが増産を続けるなか、自国のみが需給調整役を続けた場合、市場シェアを失いかねないためだ。

原油市場で年内の需給均衡が遠のき、原油価格に下振れリスクが強まれば、リスク回避先として金が買われることになる。金が早晩1300㌦を目指す展開は不変と見る。

(図1)
チャート

(図2)
チャート
                  (出所)NYMEXより筆者作成

《執筆者紹介》

柴田明夫(しばたあきお)
資源・食糧問題研究所代表 1976年東京大学農学部卒。同年丸紅入社。鉄鋼第一本部、調査部等を経て、2002年に丸紅経済研究所主席研究員。同副所長を経て、2006年同所長。2010年同代表。2011年に資源・食糧問題研究所を設立、代表に就任。<主な著書>『食料争奪』(日本経済新聞出版社)、『水戦争』(角川SSC新書)。

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