日産証券CXレポート

政治リスク映し、2月の上げ幅を失った金

 

 2017年3月13日(月)
㈱金融・貴金属アナリスト
亀井 幸一郎

注目の2月の米雇用統計は、米国経済の好調さを示すものとなった。景気動向を映す(非農業部門)雇用者数が、前月比で23万5000人の増加となり、市場予想の19万人を上回った。失業率は、市場予想が前月比変わらずのところ0.1%低下し4.7%となった。この結果は、今月3日のシカゴでの講演でイエレンFRB議長が「経済指標が想定通りなら緩やかな利上げが適切になる」とした内容に即したもので、今週のFOMC(連邦公開市場委員会)での追加利上げは、ほぼ確実となった。

9営業日連続安

ただ、金市場は、NY時間外のアジア時間の早朝から1200ドル割れまで、前のめりに売られていたこともあり、発表後には反発し一時、前日比プラス圏で推移する展開となった。結局、10日のNY金先物通常取引は1200ドル台を維持し、前日比1.80ドルの小幅安の1201.40ドルで終了した。その後の時間外取引では、1204ドル台で終了した。通常取引の終値でみて、2015年7月以来となる9営業日連続安となる。
実は、2月の雇用統計を前にして、先週8日に発表された全米民間雇用報告の内容が、市場予想の前月比19万人増に対し29万8000人増と大きく上振れしたことから、本番の(雇用統計の)雇用者数も上振れを予想する見方が増えていた。つまり、10日の結果はかなりの部分織り込み済みであり、1月31日以来となる1200ドル割れは、それを表していた。発表後の反発は、いわゆる“目先の材料出尽くし” ということになる 。

2月の“トランプ・リスク”を映した上げ幅を失う

1月31日は2月27日の1264.9ドル(添付チャート参照)まで上昇する起点となった日だった。トランプ大統領が、イスラム圏7ヵ国からの入国禁止令に対する裁判所の差し止め判決の履行を求めた当時のイエーツ司法長官代理(女性)を「裏切り者」として夜遅くに更迭した翌日にあたる。この日を境に、トランプ政権の掲げる政策実行度への不確実性に加え、政権運営自体に対する懸念が高まることになった。

2月1日から金ETF(上場投信)への資金流入が始まり、その動きは先物市場でのファンドのフレッシュ・ロング(新規買い建て)を誘発し、2月前半はETF主導、後半は先物主導の形で年初来の高値を更新、27日には1264.90ドルまで上値を見ていた。

興味深いのは、その翌日2月28日が巻き戻しの転換点になったことだ。トランプ大統領が上下両院合同本会議にて演説した日である。政策内容の不透明性はともかく、実質的な施政方針演説は、(演説の文言が目の前に映し出される)プロンプターを使ったこともあり、「無難にこなした」ことが評価されることになった。この結果、翌3月1日から再びNY株高が沸き起こり、トランプ・ラリーが復活した。債券は売られ金利は上昇、ドルも上昇傾向を強めた。

流れに飛び乗ったFRB

この流れにFRBも急遽、飛び乗りで利上げの決意を固めたとみられる。これは、現地時間の28日午後遅くウィリアムズ・サンフランシスコ連銀総裁、ダドリーNY連銀総裁が相次いで3月のFOMCでは利上げが俎上に乗ると発言したことだ。連銀総裁の中でも市場への影響力のあるこの2人が、口裏を合わせるように3月利上げの可能性に言及したことで(実際に“合わせていた”ことが後に判明)、米長期金利は上昇が加速、金は売られ始める。翌1日の夕刻には、もっとも利上げに慎重なスタンスで知られる(超ハト派)ブレイナードFRB理事までも、3月利上げの可能性を強く示唆し、市場は一気に今月の追加利上げを織り込んだ。

利上げ回数と政策金利の長期見通しがカギ

冒頭で触れたように3月3日にイエレン議長のシカゴでの講演が決定打となり、10日の雇用統計待ちとなっていた。発表結果は、文句なしに強いと言えるもので、今週の利上げを決定づけた。いわば、最後のワンピースが埋まったことになった。

この結果、市場の関心事は利上げの有無ではなく、今後の利上げペースに移ることになった。15日の声明文に加えFOMC参加者全員の経済見通しで、今年の利上げ回数が12月時点での3回から引き上がるのか否か。さらには、政策金利(FFレート)の長期見通しが、12月の3.0%から上昇となるのか否か。

取引時間中の安値から下げ幅を縮小し、時間外では再びプラス圏に入った10日の金市場はまだ、そこまでは織り込んでいない。

結局、金市場は、2月のトランプ大統領の政権運営への懸念という政治的リスクに反応する形での上昇幅を、3月以降、9営業日ですべて帳消しにすることになった。来たる3月15日のFOMC当日が、次なる節目となりそうだ。

今回の利上げが、利上げ出来る環境を捉えた単なる前倒しであって、利上げ見通しの上方修正を意味しなければ、金は1250ドル方向への戻りをみせよう。逆に見通しが引き上げられると1170ドル前後まで売られる可能性が出てきそうだ。この日は、オランダの下院議員総選挙の投票日と重なるが、値動きとしては翌16日の方が変化が出やすいかも知れない。

チャート

《執筆者紹介》

亀井 幸一郎(かめいこういちろう)
マーケット ストラテジィ インスティチュート代表取締役、金融・貴金属アナリスト、1979年中央大学法学部法律学科卒業。山一證券に8年間勤務後、1987年投資顧問会社で日本初のFP会社でもあるMMI入社。1992年ワールド ゴールド カウンシル(WGC/本部ロンドン入社。企画調査部長として経済調査、世界の金情報の収集、マーケット分析、市場調査に従事。2002年現職。「急騰前に金を買いなさい」(廣済堂出版)など。

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