日産証券CXレポート

金、高まった投資家のリスク志向

 

 2017年2月27日(月)
(株)資源・食糧問題研究所
代表 柴田明夫

チャート的には下げ分を解消

ニューヨーク金は、3月中にも1オンス=1300㌦を目指す展開となりそうだ。金市場では昨年12月15日の1123㌦を底に上昇に転じ、ほぼ1カ月ごとに押し目を付けながらも上昇基調を維持し、2月24日には1258㌦と、終値ベースでほぼ3か月ぶりの高値を付けた(図1)。金はチャート的には、昨年11月8日の米大統領選でのトランプ氏の逆転勝利以来の下げ分を解消した格好だ。問題は今後をどう見るかである。

年明け以降、金の上値を圧迫する材料として、①好調な米経済指標やトランプ新政権の「アメリカファースト」を標榜する経済政策(大型減税や規制緩和)を期待して連日、史上最高値を更新するニューヨークダウ工業株30種平均株価、②年3回とみられる米連邦準備制度理事会(FRB)の追加利上げ観測=ドル高予想、③ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が2月に発表した昨年10~12月期の世界金需要が924.5㌧と前年同期比15%減少した(ただし、バー・コインの需要は367㌧と28%の大幅な増加になった)―などが生じている。

それにもかかわらず、この間、金が上昇基調を辿った背景には、イギリスのブレグジット(EU離脱)や米トランプ政権の誕生で始まった国際政治や世界経済の漂流懸念に対して、投資家のリスク回避指向が強まっていることがあるようだ。

ドル高が金買いを誘発も

また、FRBのイエレン議長は2月14日の議会証言で、金融政策の先行きについて「追加利上げが出来るのであれば、慎重さを理由に先延ばしする理由はない」と微妙な言い回しをし、利上げ方針を維持する姿勢を示した。

しかし、うがった見方をするならば、今後、トランプ政権のインフレ政策によって新たな金融危機が訪れるリスクに備え、「イザというときに利下げできる余地を残しておくために、利上げできるときに利上げをしておこう」という「予防的な利上げ」とも受け取れる。そうであれば、昨年までのようにFRBの利上げ→ドル高→金売りといったシナリオには必ずしもつながらない。むしろ、ドル高が金買いを誘うこともあり得よう。

原油高も相場押し上げ要因に

WTI原油価格が1バレル=50㌦台半ばまで上昇してきたのも、金にとっては相場押し上げ要因である。今のところ石油輸出国機構(OPEC)の減産が9割遵守されているのに加え、トランプ政権の中東政策が新たなリスク要因となっている。①駐イスラエル・米大使館をテルアビブからエルサレムに移すとの発言、②イラン核合意に対する見直し(新たな制裁の検討)、③米露トルコによるイスラム国(IS)の掃討作戦で、シリアのアサド政権の存続容認(間接的にイランの勢力拡大につながる恐れ)―など、新たな火種が生じている。一つの目安ではあるが、金/原油比価(金が原油の何倍買われるか)を25倍とすれば、原油55㌦に対して金1375㌦となる(図2)。

1300ドルを目指す

新規需要への期待という点では、イスラム法(シャリーア)の解釈の明確化によって、中東やアジアなどイスラム圏の投資家の金投資が可能になったことが大きい。

イスラム金融機関会計監査機構(AAOIFI)とWGCは昨年12月5日、イスラム法に基づく金投資基準を発表。これにより世界最大の金ETF(上場投資信託)「SPRDゴールド・シェア」が認定され、2兆㌦規模のイスラム金融市場での金投資に道が開かれた。これは、金にとって持続的な相場押し上げ要因となる。金は早晩1300㌦を目指す動きとなろう。

図1
チャート

図2
チャート
(出所)NYMEXより筆者作成

《執筆者紹介》

林康史(はやしやすし)
立正大学経済学部教授。大阪大学卒。法学修士(東京大学)。メーカー、金融3業態を経て、現職。<著書・訳書>『改定版 基礎から学ぶ デイトレード』、『トレーダーの発想術――マーケットで勝ち残るための70の箴言』(訳)『株式投資 第4版』(共訳)『デイトレード』『マネーの公理』『運とつきあう』(以上、監訳)以上、日経BP社、『戦略的リスク管理入門』(監訳)勁草書房、ほか多数。最新刊は、『貨幣と通貨の法文化』(編)国際書院

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