日産証券CXレポート

金、不確実性を材料に堅調な展開か

 

 2017年2月13日(月)
金融・貴金属アナリスト
亀井 幸一郎

不備目立つトランプ政権

1月20日にスタートを切ったトランプ政権は矢継ぎ早に大統領令を公布、2月10日時点で通達、覚書は22本に達し、異例の多さとなっている。40%台前半という(記録に残る中での)最低の支持率でのスタートを余儀なくされただけに、迅速な政策着手、流れの変化を支持層のみならず、広く国民にアピールしたいのだろう。

日本政治が専門のコロンビア大学のジェラルド・カーティス名誉教授は、トランプ大統領を「非常にナルシストで周りに偉大なリーダーだと思って欲しい人物」と評している。まだ主要閣僚の承認が終わっておらず、ここまで主要省庁のトップの多くが空席の中で、どこに諮ることなくホワイトハウスの独断で出された大統領令には不備や、拙速といえるものも目立った。

現実に大きな混乱につながり、政権への反発をさらに高め、控訴審でも認められなかったイスラム圏の特定7ヵ国からの一時入国禁止令は、市場の警戒感をも高めることになった。市場関係者の中では、大統領に就任したら落ち着いた行動をとるとの楽観論もあったが、そうした期待は一気に後退した。ここまでの流れは、大統領側近の意見を重用したホワイトハウス主導の中央集権的な政策立案の色彩が強く、大統領権限の乱用との印象を与えている。

”不確実性“が買い要因に

金市場からの視点では、当選直後から年末まではトランプ政権は積極財政の下での金利高、ドル高予想から売り要因とされてきた。ところが、最近は“政策の不確実性”を前面に買い要因との捉え方が高まっている。大統領自身のツイッターでの不規則発言もそうした捉え方を助長している。特に「最高裁まで争う」としている入国禁止令の混乱が高まった1月末以降、金市場ではETF(上場投信)への資金流入が急増している。

金ETFの最大銘柄「SPDR(スパイダー)ゴールド・シェア」の残高は、2月1日以降6営業日連続増加を含め、10日までに約38トンの増加となっている。NYコメックスの先物取引の建玉も増えており、金市場への資金流入を裏付ける。価格も、2月8日に昨年11月11日以来の高値となる1246.6ドルまで買われ、年初来高値を更新している(グラフ参照)。

不確実性ということでは、来月中旬のオランダを皮切りとする欧州での選挙に注目してきた金市場だが、そこに米国政治の不確実性が加わったことになる。ただし、この点に関しては、先に触れたように米国の各省庁の陣容が固まっていない現時点ゆえに、予断は禁物。しばらく状況を見極める必要がありそうだ。

米国次第で一時的な失速も

2月9日には、米航空各社や空港運営会社のトップと会談したトランプ大統領が、「これから2、3週間で税金という意味で驚異的な何かを発表するつもりだ」と発言したことを好感し、NY株式市場では主要3指標(ダウ、S&P500種、ナスダック総合株指数)がともに過去最高値を更新、週末2月10日も3指数ともに続伸で取引を終えている。

つられて、米長期金利(10年国債の利回り)もドルも上昇している。金融市場は、「本線はあくまで減税とインフラ整備の財政出動による景気押し上げ効果」と読んでおり、風向き次第では米国要因が響き、金市場は一時的ではあるが失速の可能性もありえよう。

2月1日に終了した公開市場委員会(FOMC)では、3月の利上げについて、示唆的なものはなく、金価格の押し上げ要因となった。さすがにFRB(連邦準備理事会)も新政権の政策運営の様子見を余儀なくされているということだろう。今週2月14、15日にはイエレン議長の議会証言(14日上院、15日下院)が予定されており、どのような発言内容となるか、金市場の方向性を読むうえで注目される。

注目されるイスラエル首相との会談

この先、トランプ新政権は通商政策や外交などで本格的に動き出すとみられるが、今週は2月15日にイスラエルのネタニアフ首相が訪米し、首脳会談が予定されている。イスラエル寄りの外交を展開するとみられている新政権だけに、足元で入国禁止令に関連してイランが対抗姿勢を示しているタイミングでもあり、この会談の落としどころがどうなるのかも注目される。中東はロシアをからめ、流動化が危惧されるだけに、金市場の重要関心事でもある。

3月中旬のFOMCやオランダの総選挙に向け、押し目を入れながらも金市場の堅調展開は続きそうだ。

NY 金価格の推移
NY金価格の推移

《執筆者紹介》

亀井 幸一郎(かめいこういちろう)
マーケット ストラテジィ インスティチュート代表取締役、金融・貴金属アナリスト、1979年中央大学法学部法律学科卒業。山一證券に8年間勤務後、1987年投資顧問会社で日本初のFP会社でもあるMMI入社。1992年ワールド ゴールド カウンシル(WGC/本部ロンドン入社。企画調査部長として経済調査、世界の金情報の収集、マーケット分析、市場調査に従事。2002年現職。「急騰前に金を買いなさい」(廣済堂出版)など。

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