日産証券CXレポート

金、米の中東、中国外交政策は買い要因

 

 2017年1月30日(月)
(株)資源・食糧問題研究所
柴田明夫

1,200ドルで攻防

ニューヨーク金は、1月後半にかけて1オンス=1200㌦を巡る攻防にある(図1)。イギリスのメイ首相が17日の演説で、欧州連合(EU)離脱に際し、移民制限を優先してEU単一市場や関税同盟から撤退する「ハードブレグジット(強硬離脱)」方針を明らかにしたことで、投資家のリスク回避指向が強まり、先行き不透明感から欧州株が下落する一方、安全資産としての金が買われ、1200㌦台を回復した。

しかし、18日には米地区連銀景況報告(ベージュブック)が公表され、米経済の緩やかな成長が続き利上げペースが早まるとの見方が強まると金は1200㌦を割り込んだ。イエレンFRB議長が講演で、追加利上げに前向きな姿勢を示したことも金の圧迫材料となった。

株高で上値抑えられた金

こうした中、20日に行われた共和党ドナルド・トランプ氏の大統領就任式は、改めて「米国第一主義」を強調したものとなったものの、市場が期待した「インフラ投資」などの具体的な政策は語られなかった。ただ、就任直後から相次いで大統領令が発令され、法人税減税や規制緩和などの選挙公約に取り組む姿勢が示されたことで、米経済の成長加速期待が高まり、NYダウが史上初めて2万㌦の大台を突破。逆に、金の上値が抑えられた格好になった。

しかし、トランプ新政権下の米国が今後、世界経済の下支え役となるのか、新たなリスクとなるかは、2月に予定されている米大統領予算教書の内容を見るまでは読み難い。特に、トランプ政権は、中東政策および対中関係という2つのリスク要因がはらんでおり、金にとって中長期的な買い要因であることは確かである。

宗教戦争勃発も

トランプ大統領はかねて中東政策に関して親イスラエル、反イラン、イスラム国壊滅という3つの「I」政策を主張。イスラエルとの関係修復を図るため駐イスラエル・米大使館をテルアビブからエルサレムに移すと発言している。これが実行された場合、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教の信者を巻き込む宗教戦争に発展しかねない。

また、トランプ新政権は、オバマ前政権下で取り決められたイラン核合意を「これまで行われた取引で最悪のもの」と酷評しており、今後、イランが合意を享受できないような措置をとる可能性が高い。この場合、5月に大統領選を控えたイランで、再び反米強硬派が勝利する恐れがある。

さらに、イスラム国に対しては、IS壊滅に向けロシアとの共闘を模索し、アサド・シリア大統領については存続を容認する姿勢だ。サウジアラビアにとっては、IS壊滅は好ましいものの、アサド政権支援はイランの勢力をも温存することになり複雑だ。

習近平政権に致命的打撃も

もう1つの懸念材料は対中政策だ。中国についてトランプ氏は、「許しがたい為替操作、産業スパイ行為、サイバー戦争という3つの大きな脅威を米国にもたらしている」と非難。中国が盗んでいる雇用を取り戻すため、製造業の「本国帰還」などに言及している。このため、中国からの資金流出が止まらず、外貨準備が3兆㌦を割り込む状況にある(図2)。

その一方、中国は金準備を2014年の1054㌧から昨年末で1823㌧へと増やしている(民間での保有量は4200㌧とも言われている)。政府は人民元の買い支え(ドル売り)に必死になっているものの、国内経済の過剰問題を抱えた習近平政権にとって、トランプの反中強硬政策は致命的となりかねない。これらのリスクが顕在化することになれば、金は大きく買われることになろう。

図1
NY金および円ドル相場の推移
(出所)NYMEXより筆者作成

図2
中国の金準備&外貨準備
(出所)WGC2016年11月報告より筆者作成

《執筆者紹介》

柴田明夫(しばたあきお)
資源・食糧問題研究所代表 1976年東京大学農学部卒。同年丸紅入社。鉄鋼第一本部、調査部等を経て、2002年に丸紅経済研究所主席研究員。同副所長を経て、2006年同所長。2010年同代表。2011年に資源・食糧問題研究所を設立、代表に就任。<主な著書>『食料争奪』(日本経済新聞出版社)、『水戦争』(角川SSC新書)。

【免責事項】

「週刊日産証券C X レポート」( 以下、本情報と略記) は、株式会社市場経済研究所が提供する一定の条件の下で執筆者が作成したレポートです。

利用者は、本情報を利用者ご自身でのみご覧いただくものとし、ご自身の判断と責任においてご利用ください。本情報は一定の情報を提供するものに過ぎず、特定の銘柄、金融商品、商品価格などについての投資・購買に関する助言や勧誘を目的としたものではありません。また、市場経済研究所は、投資助言・代理業を一切行っておりません。

利用者は、本情報に関して、第三者への提供や再配信、再配布、独自に加工すること、複写もしくは加工・印刷したものを第三者に譲渡または使用させることはできません。また、本情報のウェブページへのリンクは禁止します。その他、市場経済研究所が適当でないと判断する行為をした場合には、利用を停止させて頂くことがあります。

本情報の利用にあたり、利用者が故意または過失により、市場経済研究所および当該執筆者に対して、何らかの損害を与えた場合には、市場経済研究所等は損害賠償請求をすることがあります。

レポート
TOPへ