日産証券CXレポート

金、長期戦略からの金投資が増加

 

 2017年1月4日(水)
株)資源・食糧問題研究所
代表 柴田明夫

解消していない一次産品の過剰

2016年が過ぎた。年前半は、中国経済の減速に伴う供給過剰問題の顕在化、原油や鉄鉱石価格低迷による一次産品輸出国の苦境、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げタイミングとその影響、ブレグジット(英国のEU離脱)などにより、先行きの不透明感が極端に高まった。

後半に入ると、中国の短期的懸念は後退し、一次産品価格も部分的に回復。FRBの追加利上げも行われた。接戦となった米大統領選では共和党トランプ氏が逆転勝利し、市場は新政権のインフラ投資への期待が高まるなど、明るさも見られるようになった。

しかし、詳細に見れば、必ずしも安堵することはできない。一次産品の供給過剰問題が解消されたわけではないからだ。市場での「楽観」と「悲観」は最近の金の荒い値動きに象徴的に表れている。

問われるトランプ・ラリー

ニューヨーク金は、2015年12月3日に1オンス=1046㌦の安値を付けた後、2016年前半にかけて投資家のリスク回避志向の強まりを受けて騰勢に転じ、7月6日には1374㌦と3年ぶりの高値を付けた。しかし、年後半に入ると原油価格の急伸、米金利高・ドル高、ニューヨーク株高により、投機筋のリスク指向が強まり、金は一時1120㌦台まで売られた後、1150㌦台で年越しした。2017年1月3日の金相場は1162㌦からのスタートとなった(図1)。

2017年の金相場をどう見るか。基本的には、金融市場および原油価格に影響される展開は変わらぬとしても、昨年年末にかけての「トランプ・ラリー」と称される株高・ドル高の持続性が早晩問われることになろう。

1月20日の就任式後、新政権の現実が見え始めてくれば、市場の期待がさらに高まるのか、逆に警戒心から再び「トランプ・リスク」が広がるのかが判明する。前者であれば金は売られ、後者であれば金はリスク回避志向から昨年前半同様に大きく買い戻される公算が大きい。

減少した金需要

とはいえ、今後の金相場の方向性およびトレンドをみる上で重要なのは需要動向だろう。ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の2016年11月レポートによると、2016年第3四半期(Q4)の金需要は992.8㌧で前年同期比10%減少した。インドの需要が57.0→40.1㌧に縮小したほか、中国55.2→42.5㌧、香港53.2→41.0㌧、米国32.7→19.1㌧、ドイツ30.2→19.3㌧と減少した。

分野別では宝飾品・加工品(621.6→493.1㌧)、工業品(82.8→82.4㌧)および中央銀行他(168.0→81.7㌧)が減少した。なお、中央銀行他の購入は減少したものの、中国およびロシアについては、2014年末~16年9月にかけて、中国は785㌧増(1054→1839)、ロシア335㌧増(1208→1543)と、積極的な買いが目立った。

こうした中、ETP(ETFなど上場取引型金融商品)は、2015年Q4にマイナス63.4㌧と、市場からの流出ポジションから2016年Q4はプラス145.6㌧と大幅な増加に転じている(図2)。年初からの流入量は725㌧となり、ETPの運用残高も2335.6㌧と過去最高となっている。

通常、金が買われるのは、価格が大きく低下した場合(いわゆる安値拾い)か将来にわたり持続的な上昇が期待できる場合だが、ETP投資がこの1年間で大幅かつ継続的増加に転じていることは、世界的なポピュリズム(大衆迎合主義)の広がりに伴う将来の不透明感に対し、投資家が短期的な価格変動に捕らわれることなく、むしろ長期戦略的に金を購入しているためと言えそうだ。

図1
グラフ NY金および原油相場の推移
(出所)NYMEXより筆者作成

図2
世界金需要
(出所)WGC2016年11月報告より筆者作成

《執筆者紹介》

柴田明夫(しばたあきお)
資源・食糧問題研究所代表 1976年東京大学農学部卒。同年丸紅入社。鉄鋼第一本部、調査部等を経て、2002年に丸紅経済研究所主席研究員。同副所長を経て、2006年同所長。2010年同代表。2011年に資源・食糧問題研究所を設立、代表に就任。<主な著書>『食料争奪』(日本経済新聞出版社)、『水戦争』(角川SSC新書)。

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