日産証券CXレポート

金、トランプ・フィーバーが金相場を圧迫

 

 2016年12月5日(月)
(株)資源・食糧問題研究所
代表 柴田明夫

金相場が波乱の展開となっている。ニューヨーク金は11月23日、1オンス=1189ドルと節目の1200ドルを割り込み、5月以来の安値を付けた。原油価格の急伸、米金利高・ドル高、ニューヨーク株高により、投機筋のリスク指向が強まり、金が売られた格好だ。

問題は、今回の金売りが一時的なものか、ある程度持続するとみるのかだ。換言すると、金相場の先行きを占う上で独自の材料はなく、あくまでも原油、ドル、株価次第ということである。

原油の50ドル台定着は疑問

まず、原油をどう見るか。WTI原油は、石油輸出国機構(OPEC)の8年ぶりの減産合意を受け1バレル=50 ㌦台に急伸。これにより市場に(金売りにつながる)安堵感が広がった。減産幅は日量約120万バレルで来年1月から約半年間実施する。

サウジアラビアが約50万バレル削減し日量1000万バレル強とするほか、イランも経済制裁前の同380万バレル弱に凍結。非OPEC加盟国ロシアが最大30万バレル削減を表明したことも相場支援材料となった。とはいえ、WTIが50㌦ル台に定着すると見るには疑問が残る。

第1は実効性の問題だ。減産合意はあくまでも口約束であり年明け以降実現される保証はない。第2に、減産の基準が記録的水準となった10月の同3364万バレルに対するものであり、アルジェ非公式会合で合意した8月の生産量(日量3324万バレル)からは80万バレルの減産に過ぎず、世界的な供給過剰を解消するには効果が薄い。第3に、高値では米シェールオイルの活動が活発化する。原油は40㌦台での底値を固めたというところだろう。

米金利上昇は弱材料

トランプ次期政権のインフラ投資期待から米金利が上昇、円安・ドル高が進展していることも金の逆風となる。市場では、当初みられたトランプ氏の経済的混乱リスクが後退し、次期政権の政策に市場の関心が映り始めている。経済政策では、反グローバリズム=保護主義的な通商政策が懸念される一方、インフラ投資への期待が急速に高まりニューヨークダウ平均株価が19000ドル台に上昇し史上最高を更新するなど、トランプ・フィーバーに転じている。これに伴い米金利が上昇し、円安・ドル高が進展している(図)。

ドル高は、ドル建てで取引される金を割高にすることから、価格の圧迫材料となる。特に、ダウ30銘柄にエクソンモービルやシェブロンなど石油メジャーが含まれるほか、S&P500の内、13~15%がエネルギー関連株のため、原油価格が上昇すれば株価が押し上げられ、投機マネーが金から株式市場にシフトする。要するに今のところ世界の金融市場は原油価格の上昇を望んでいるのだ。

トランプ氏の金相場への影響は不明

さらに、トランプ氏のエネルギー政策もシェールオイル初め石油産業の追い風だ。「アメリカ第一」を標榜するトランプ氏は、オバマ政権によるシェールガス・オイル開発に対する過度な環境規制が、石油産業の雇用を奪っていると批判。エネルギー開発のための環境規制の緩和、カナダからメキシコ湾岸に至るパイプラインの建設、イラン核合意の見直しなどを打ち出す公算が大きい。ただ、これらの政策が直接的に金相場の売り要因(原油価格を押し上げ要因)となるのか、逆に、金買い要因(原油の圧迫材料)になるのか、今のところ不明である。

(図)
NY金および原油相場の推移

《執筆者紹介》

柴田明夫(しばたあきお)
資源・食糧問題研究所代表 1976年東京大学農学部卒。同年丸紅入社。鉄鋼第一本部、調査部等を経て、2002年に丸紅経済研究所主席研究員。同副所長を経て、2006年同所長。2010年同代表。2011年に資源・食糧問題研究所を設立、代表に就任。<主な著書>『食料争奪』(日本経済新聞出版社)、『水戦争』(角川SSC新書)。

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