日産証券CXレポート

米長期金利の急騰がもたらすドル高の中での金下落

 

 2016年11月21日(月)
金融・貴金属アナリスト
亀井 幸一郎

共和党トランプ候補の次期米国大統領就任が決まって以降、米長期金利(10年国債利回り)の上昇が止まらない。上昇テンポは近年例をみないもので、大統領選投票日前週末11月4日の1.776%から前週末の11月18日の2.355%まで10営業日連騰し、この間、0.6%近い上昇となった。

これは債券相場が急落状態にあることを表している。その一方、各国の金利は多少の連れ高はあったが上昇ピッチは鈍く、ドルと他通貨間の金利差は一気に開いた。この金利格差がドル買いにつながり、主要通貨のみならず新興国通貨に対してもドルが暴騰状態となっている。

主要6通貨に対する相対的なドル価値を示すドル指数(DXY、ICEフューチャーズ上場)は11月18日に101.48ポイントまで上昇後、101.30ポイントで終了し、2003年4月以来の高値水準まで買い上げられている。

ドル高の中で売られた金

このドル高の中で、NY金価格はドル指数の上昇に応じて売りを出すファンドの「ロボット・トレーディング(コンピュータ・プログラム)」が稼働、下げ幅を拡大した。先に触れた米長期債と同じ11月4日から18日までの間に1304.5ドル(NYコメックス中心限月の終値)から1208.7ドルまで95.8ドル、7.3%の大幅安となった。(グラフ参照)。

まさに「強いドルは弱い(ドル建て)金」を地で行く展開となっている。ちなみに、この間のドル円相場は、103.12円から110.91円と大幅なドル高(円安)となったため、ドル建て価格の下げが円安で相殺され、東京商品取引所(TOCOM)の金先物価格は、4287円から4270円と、値動きに目立った変化は見られていない。

さて、冒頭から米長期金利の上昇から始めたのは、大方の予想を覆す形で決まったトランプ次期政権の決定以降にどの市場も乱高下の末に、方向性はいわゆる「リスク・オン(リスク資産選好)のドル高、株高、債券安に突入する中で、金市場への影響という面ではドル高があり、その陰の主役が債券安つまり金利上昇があるとみられることによる。

当初は金の上げ要因とされたとトランプ勝利

選挙前の見通しとしては、トランプ政権の誕生は、米国のみならず国際経済の不透明要因の高まりを意味し、「リスク・オフ(リスク資産回避)」を前提に組まれていた。周知のようにドル安、株安、債券高(金利低下)、金高という見通しが主流を占めていた。そして、日本時間の9日早朝から始まった米国での開票に沿った市場の流れは、当初のクリントン優勢という見通しの下、ドル高(円安)、株高が進行した後に、間もなくトランプ優勢に転じたころから乱高下が始まり、金はNY時間外の9日のアジアの時間帯に1338.3ドルまで買われていた。

このトランプ政権誕生リスクを織り込みに掛った流れが急変したのは、日本時間の午後4時半以降、トランプの勝利が決定的となり、勝利宣言スピーチが始まった時だった。トランプの選挙戦中の過激を極めた言説は姿を消し、融和を訴えかける柔らかな物腰に、これまで形作られていた同候補へのイメージが変わった。

同時に、議会選挙では上下両院も共和党が勝利したことが、今後の市場への材料として急速に織り込まれ始める。トランプ候補の公約となっていた大型減税とインフラ投資という財政刺激策にスポットが当てられ、米景気拡大を意識する流れが生まれた。

NY市場は深夜の時間帯だったことから、まず為替市場の反応が目立ったが、NYの早朝の時間帯に、本格的に金融市場の先物取引が稼働し始めると、債券売りという大きなうねりが起き始めた。

すなわち、冒頭の長期金利の急騰のうねりが起こり、これがドル高をさらに刺激し、金市場では急速に売りが膨らむことになった。結局、9日のNY金はアジアの時間帯の大幅上昇を帳消しにし、前日比マイナス圏で取引を終了した。そしてドル金利上昇、ドル高の悪材料が急速に進む中、11月11日に直近の安値となっていた1243.20ドル(10月7日)を割り込むと、さらにファンドの売りが膨らむことになった。

積極的な売りスタンスを示していないファンド

すでに、12月のFOMC(連邦公開市場委員会)での利上げについては、金市場のみならずあらゆる市場が横断的に織り込み済みと言える。この中で米長期金利の上昇が止まらない状況が、FRB(連邦準備理事会)に、「緩やかな金利上昇というここまでの展望に変更を迫るのでは」との憶測が生まれた。

トランプ候補が主張した「10年で1兆ドル(110兆円)のインフラ投資」と大型減税の組合せが、米国財政を圧迫し、国債の増発につながるということが、債券売りの背景にあるとみられる。きっかけはヘッジ・ファンドのロボット・トレーディングの動きとみられるが、一定の流れが勢いを増す中で金利上昇もドル高も加速した。

すでに触れたように13年半ぶりのドル指数の高値示現の中で金は1200ドル割れを試す位置まで売られている。見方を変えるならば、“このドル高の中で金は1200ドルを維持している”との表現もできる。

下値は限定的か

金市場参加者は、今後どう捉えているのだろうか。その手掛かりが先週末に発表されたCFTC(米商品取引委員会)発表のファンドのポジション推移に表れている。11月15日時点のデータとなるが、ファンドのネットの買い越しは、前週比重量換算にして123トン減少し、552トンとなっていた(オプション取引を除く)。注目すべきは、取組が減少する中で、買い建て(ロング)、売り建て(ショート)の双方が減っていることだ。

ファンドは市場全般の混乱の中で、取りあえず手仕舞いを進めており、金の下げを見込みショートを増やしているわけではない。この状況を見る限り、金の下げも下値に接近していると思われる。考えてみれば、ここまでの動きは、あくまで思惑が先行するかたちで表れている。今後、財務長官人事などが固まるにしたがい、修正的な金利とドルの反落がみられると思われる。

(グラフ)
NY金価格の推移

《執筆者紹介》

亀井幸一郎(かめいこういちろう)
マーケット ストラテジィ インスティチュート代表取締役、金融・貴金属アナリスト、1979年中央大学法学部法律学科卒業。山一證券に8年間勤務後、1987年投資顧問会社で日本初のFP会社でもあるMMI入社。1992年ワールド ゴールド カウンシル(WGC/本部ロンドン入社。企画調査部長として経済調査、世界の金情報の収集、マーケット分析、市場調査に従事。2002年現職。「急騰前に金を買いなさい」(廣済堂出版)など。

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