日産証券CXレポート

金 原油減産への懐疑が支援材料

 

 2016年11月7日(月)
(株)資源・食糧問題研究所
代表 柴田明夫

トランプ・リスクを写し金は反騰、1300ドルを回復

金は、米大統領選が混乱を極める中で大きく値を戻した。ニューヨーク金は10月7日に一時1オンス1240ドル台の安値を付けた後、1200ドル台後半での底堅い展開となっていた。しかし、10月下旬にかけて再び上昇基調に転じ、11月4日以降はほぼ1カ月ぶりに1300ドル台を回復した。(図参照)

金反騰の要因は、10月に金が暴落した要因の裏返しで、新たに3つの要因が出現したことによる。
その3つとは、
① 米大統領選でのトランプ候補の巻き返し
② 米連邦準備理事会(FRB)による11月の追加利上げを見送り
③ 石油輸出国機構(OPEC)の減産合意に懐疑が生じて、原油価格が急落した

いずれも先行き不透明感を強めるもので、投資家のリスク回避志向から金買いにつながった。しかも、すべてが連動している。それぞれ具体的に眺めてみよう。第1は、いわゆるトランプ・リスク(トランプ氏勝利により世界経済の不確実性が高まるリスク)だ。

10月に行われた米大統領選でのテレビ討論会で、共和党のトランプ候補が完全に失速したと見られていた。しかし、10月末に、米連邦捜査局(FBI)がヒラリー・クリントン前国務長官の私用メール問題について捜査を再開したとの報が流れると状況が一変。11月1日に、米紙ワシントン・ポストとABCテレビが発表した世論調査では、共和党のトランプ候補が民主党のクリントン候補を1ポイント差で逆転した。このため、8日に迫る米大統領選を目前に先行きに不透明感が強まった。

第2は、11月1~2日にわたる米連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利上げが見送られたことだ。これ自体は、市場の想定内であったとしても、問題はトランプ・リスクの台頭により12月13~14日のFOMCでの利上げも怪しくなったことだ。為替市場では、比較的安全な通貨とされる円が買われ、ドルは105円台から102円台まで売られた。

第3に、原油価格の急落が市場のリスクを高めていることだ。約8年ぶりとなるOPECの減産合意を契機に、原油価格は10月前半にかけて急反発したものの、後半には早くも上昇に息切れ感が生じ始めた。

WTI原油価格は10月10日に約1年半ぶり1バレル=51ドル台に乗せた後、11月4日には44ドル台まで急反落した。11月30日のOPEC総会で本当に減産できるのか懐疑的な見方が強まったためだ。OPECは、先週末に高官会合を開き、ロシアなど非加盟国の主要産油国6カ国を交えて生産調整へ向けた連携を論議したが、具体的な進展がないまま閉幕し、失望感が広がった。

では、今後の金相場をどうなるのだろうか。上記3つの要因はあくまでも短期的なもので、仮に大統領選でクリントンが勝利しトランプ・リスクが解消されれば、再び年内利上げの可能性が高まり、金売り要因となる(逆は逆)。

OPECの協調減産についても、それが実現されなくても、財政危機に陥っているサウジアラビアが単独で減産に踏み切る可能性がある。同国の名目GDPは、原油価格の低迷を受けて2014年の7548億ドルから15年6541億ドルとなり、16年は6191億ドルまで縮小する見通しだ。2012年に882億ドルあった政府財政収支は、14年▲144億ドル、15年▲979億ドルに拡大し、16年には▲836億ドルとなる予想だ(表参照)。こうしたサウジの財政事情をみると、最近の脱石油戦略の背景も理解できる。原油の急落リスクがないとすれば、金も再び売られ1300ドルを割る可能性が強い。

(図)
NY金および原油相場の推移

(表)
サウジアラビアの主要経済指標

《執筆者紹介》

柴田明夫(しばたあきお)
資源・食糧問題研究所代表 1976年東京大学農学部卒。同年丸紅入社。鉄鋼第一本部、調査部等を経て、2002年に丸紅経済研究所主席研究員。同副所長を経て、2006年同所長。2010年同代表。2011年に資源・食糧問題研究所を設立、代表に就任。<主な著書>『食料争奪』(日本経済新聞出版社)、『水戦争』(角川SSC新書)。

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