日産証券CXレポート

買い建て(ロング)の整理が進んだ金市場

 

 2016年10月24日(月)
金融・貴金属アナリスト
亀井 幸一郎

一巡した“Brexit(ブリグジット)”相場

ドル建て金価格(以下、金価格)は6月23日の英国の国民投票で離脱が決まったことで翌24日に前日比60ドル近く急騰、以降、おおむね1300ドル台前半を中心とする水準での推移が続いた。このいわゆる“Brexit(ブリグジット)”騒動に反応した急騰が、年始以降の今回の上昇相場の中で初めて起きた「イベント反応型(event-driven)」の上昇だった(8月1日付けレポート参照)。

しかし、ここにきて12月13~14日の連邦公開市場委員会(FOMC)での追加利上げが現実味を帯びる中、米長期金利が上昇し、為替市場でもドル高が進み、9月下旬からファンドの手仕舞い売りが目立ち始めた。

これは10月に入り、米ISM(供給管理協会)の製造業景況指数が大きく改善していることが影響した。それが判明した翌日の10月4日に40ドル超もの急落を含め、断続的に売りが続くことになった。結局、金価格は3ヵ月間の1300ドル台での保ち合い相場の後に“Brexit(ブリグジット)”前の水準に戻った。それ以降は、出来高も細り1200ドル台半ばを中心とする推移が続いている。(グラフ参照)

9月下旬以降の売りはファンドの益出し売り

9月中旬のFOMCにて利上げが見送られた後にファンドの買い建て(ロング)の手仕舞い売りが続いた背景には、季節性がある。もともと一般の投資信託(ミューチャル・ファンド)を含め、11月に決算期を設定しているファンドは9月、10月に換金売りを出すことが多いことで知られる。

金市場関連でもヘッジファンドは同じ。1300ドル超の価格は年始から20%以上の値上りした水準であり、9月中旬以降に益出しの手仕舞い売りを増やしたとみられる。ちょうど9月のFOMCで、年内の利上げ観測が委員間の金利予測の結果高まったことも益出し売りを促したとみられた。

さらに11月の決算を前にヘッジファンドの解約申し出期限が10月中旬に切られていることもあった。これは「45日前ルール」とも呼ばれ、それまでに申し出をすることで解約出金ができる。特に今期は運用成績が不振で苦戦しているヘッジファンドが多かったため、解約希望の通告が多かったようだ。パフォーマンスの良かった金が、益出しの対象となったのはうなずける。

一気に進んだ先物市場での買い残整理

こうした換金売りはNYコメックスの先物取引で澱(おり)のように溜まり、結果的に上値の重さにつながっていたロングの整理を一気に進めることになった。ファンドの買い越し残(ネット・ロング、オプション取引除く)は、9月27日時点で29万1904枚(1枚=100オンス)、重量換算で908トンに達していたが、直近10月18日のデータでは、17万9618枚、559トンまで減少した。3週間で11万2286枚、349トンもの玉整理(ポジションの整理)が進んだことになる。

ちなみにピーク時(過去最高でもある)の7月5日(983トン)からは、実に43%もの減少となる。言うまでもなく先物市場での買い建て残は、将来の売り予備軍。市場の内部要因は、この3ヵ月間上方硬直化の強い状態だったが、ほぼ解消されたといえよう。

10月初めの急落は、当時、1308ドル近辺に位置していた100日移動平均線を割り込んだことが引き金を引き、次いで心理的な抵抗線となっていた1300ドル割れで売りに拍車がかかることになった。その後はストップロス(一定の範囲で損失を確定させる売り)の売りを巻き込み、最後は追証(マージンコール)回避の売りも引き出したとみられる。

200日移動平均線がサポート

結局、1250ドル台にて下げ止まったのは、ここに長期のサポート・ラインと目される200日移動平均線が位置していたことと無関係ではない。一連の下げが、ファンドの手仕舞い売りであり、テクニカル要因が相場に投影されていることによる。なお、この間の状況で特筆に値するのは、金ETF(上場投信)の残高に大きな減少が見られなかったこと。データ上も明らかだが、今回の調整はまさに先物市場、コメックス主導で進んだことを表す

足元では、同線が水準を徐々に切り上げていくとともに(10月21日時点で1265ドル)相場も戻り歩調で推移しているところだ。1300ドル超の水準では、インドや中国など代表的な需要国での現物需要が大幅に落ちていた。

特にインドでは、この上半期は前年同期比で30%もの落ち込みとなった。インド国内の価格は一時、ロンドンの現物価格に比べ40ドル近いディスカウント状態が続いていた。それだけ買い引き合いが弱かったことを表す。それも先週にはディスカウント状態は解消され、プレミアムに転じていると伝えられている。ちょうど秋の需要期に入っており、実需の復活は相場の下支えとして期待されている。

不透明環境の継続

現在、市場参加者が読む12月の米利上げの確率は7割近い水準にまで高まっている。この環境がドル高として反映され、金の上値を引き続き抑えている。では、実際に12月に利上げされるとなると金市場の反応はどうなるだろう。想定しているのは、実際に利上げに着手することで材料出尽くし観が醸成されるのではということ。FRBが想定する先行きの金利水準が低下してきていることもある。

次の利上げまで、相応の時間がかかるとみられ、それは米国経済自体が過熱に遠いことを表す。むしろ目先の米大統領選をはじめ、欧州や中東情勢(米ロの確執の高まり)など地政学的要因に加え潜在するチャイナ・リスクなど不安定な市場環境が続く中で、金市場への投資家の関心は続きそうだ。いわゆる押し目買いの環境が到来していると思われる。

NY金価格の推移
NY金価格の推移

《執筆者紹介》

亀井幸一郎(かめいこういちろう)
マーケット ストラテジィ インスティチュート代表取締役、金融・貴金属アナリスト、1979年中央大学法学部法律学科卒業。山一證券に8年間勤務後、1987年投資顧問会社で日本初のFP会社でもあるMMI入社。1992年ワールド ゴールド カウンシル(WGC/本部ロンドン入社。企画調査部長として経済調査、世界の金情報の収集、マーケット分析、市場調査に従事。2002年現職。「急騰前に金を買いなさい」(廣済堂出版)など。

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