日産証券CXレポート

金、年初来の上層トレンドが終焉

 

 2016年10月11日(火)
(株)資源・食糧問題研究所
代表 柴田明夫

2週間で約100ドル暴落

金相場は10月に入り急落した。ニューヨーク金相場は9月21日、米連邦準備制度理事会(FRB)が追加利上げを見送ったことで、一時1オンス=1340ドル台まで上昇したが、その後は続落基調に転じた。10月4日には下値抵抗線とみられた1300ドルを割り込み、7日には1240ドル台の安値を付けるなど、2週間で約100ドルの暴落となった(図1)。

金が1250ドルを下回ったのは6月上旬以来のこと。今回の暴落でチャート的には、年初の1100ドル前後から7月の高値1370ドル台までほぼ一貫して辿ってきた金相場の上昇トレンドが崩れた。

暴落に3つの要因

直接のきっかけは“ドル高”だが、少なくとも3つの要因が、“金売り”の潮流を生み出した。1つは、米連邦公開市場委員会(FOMC)の声明、第2が石油輸出国機構(OPEC)の減産合意、第3が米大統領選でのテレビ討論だ。それぞれ確認してみよう。

第1に、FRBは9月のFOMCで、9月の追加利上げを見送ったものの、同時に公表された政策金利見通しで、2016年の利上げ予想が従来の2回から1回に引き下げられた。11月の米大統領選挙直後の引き上げがないとすると、12月のFOMC後の利上げの可能性が高まった。イエレン議長も会見で、将来の景気拡大が続くことを前提に年内の利上げに踏み切る意向を示している。9月29日に発表された4~6月期の国内総生産(GDP)・確定値が前期比年率+1.4%と、前回発表の同+1.1%から上方修正されたこともイエレン議長の見方を補強する形となった。

さらに、FRB内では米ボストン連銀総裁やニューヨーク連銀総裁、リッチモンド連銀総裁など、多くのFOMCメンバーが早期の利上げの必要性を訴えている。現行の0.25~0.5%と極めて低い政策金利下では、数年内に景気後退入りした場合に「金融危機の時のような急激な利下げができない」ことに警戒したものだ。

原油上昇で売られた金

第2は、OPECが9月28日のアルジェリアで開いた非公式会合で減産に合意したのを契機に、原油価格が大きく盛り返したことだ。OPEC加盟14カ国の8月の生産量は日量3324万バレルで過去最高水準にある。これを次回11月30日の総会で同3250~3300万バレルに減産することで合意した。実現すれば8年ぶりの減産で、相場の下支えとなる。

実際、WTI原油価格は9月20日の1バレル=42ドル台から急騰し、10月7日には50ドル台を付けるなど4カ月ぶりの高値となった。これにより原油価格の長期低迷という市場のリスク要因が後退し、リスク回避資産としての金が売られるかたちとなった(図2)。

原油の上値が重いと下値を限られる

第3に、9月26日に実施された米大統領選第1回テレビ討論会で、民主党候補のヒラリー・クリントン氏が優位に立ったことで、これが市場の不安を和らげる格好となった。共和党候補のトランプ氏は、過去の女性中傷や最大18年間の所得税免除の可能性などに批判が集中するなか、冷静さを欠いた対応で支持率を低下させた。

今後の金相場をどう見るか。上記の第1と第3は引き続き金の圧迫材料といえよう。難しいのは第2の判断だ。少なくとも問題が3つある。①加盟各国に減産分を本当に割り振れるのか、②最大75万バレルの減産で、どれだけ効果があるのか、③原油価格が上昇すればロシアや米シェールオイルの活動も活発化する―などだ。いずれも原油の重しとなる。原油の上値が限られるとすれば、逆に金の1200ドル台での下値も限られることになるだろう。

図1
NY金および円/ドル相場の推移

図2
NY金およびWTI原油

《執筆者紹介》

柴田明夫(しばたあきお)
資源・食糧問題研究所代表 1976年東京大学農学部卒。同年丸紅入社。鉄鋼第一本部、調査部等を経て、2002年に丸紅経済研究所主席研究員。同副所長を経て、2006年同所長。2010年同代表。2011年に資源・食糧問題研究所を設立、代表に就任。<主な著書>『食料争奪』(日本経済新聞出版社)、『水戦争』(角川SSC新書)。

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