日産証券CXレポート

出口に迷うFRBと水準を切り上げる金

 

 2016年9月26日(月)
金融・貴金属アナリスト
亀井 幸一郎

9月の米利上げは見送り

FOMC(連邦公開市場委員会)は、今回も利上げを見送ることになった。ただし、声明文では短期的な経済見通しに対するリスクは「おおむね均衡している」と前回より上方修正し、「雇用の伸びは最近数ヵ月間しっかりしている」とした。その上で「金利の引き上げに向けた論拠は強まった」とし、年内に利上げを行う可能性を示した。

今回は、雇用やインフレ率が目標に向け継続的に改善するさらなる証拠が出そろうまで「当面(for the time being)」利上げを見送ったとしている。慎重を期して利上げは見送ったものの、年内の利上げは視野に入れているということになる。 もっとも「おおむね均衡している(appear roughly balanced)」という声明文の文言は、ズバリ利上げを示唆するもので、実際に9年半ぶりに利上げした昨年12月の声明文に使われた表現でもある。

大統領選を前に11月も難しい

年内残されたFOMCは11月1、2日と12月13、14日の2回となるが、11月は大統領選挙の直前となることから、今後の指標に悪化が見られなければ、12月の会合で引上げを想定していることになる。

9月26日から米大統領選は両候補による第一回目のテレビ討論会が始まる。イエレン議長は、記者会見で「政策決定において政治を考慮することはない」と明言し、「会合は毎回、利上げの可能性を議論する場となる」とした。つまり11月利上げの可能性もあるというわけだ。だが、それは建前であって、現実には今回の政治的騒動に巻き込まれることを避けるだろう。11月8日の投票日を直前にした政策変更は考えにくい。

12月利上げ織り込み済みもなお予断許さず

12月の利上げについては、金市場を含め、広く市場全般で織り込み済みとなっており、現時点でも市場関係者の読む可能性は50%以上となっている。率直にいうなら、「FRBは12月に“利上げしたい”と宣言しが、それは“利上げする” と同意ではない」ということになろう。

以前であれば、そのまま利上げに突き進むことになったのだろうが、イエレン議長が記者会見で認めたように、失業率が数ヵ月にわたり5%を下回っていても「景気が現時点で過熱している」とはみていない。むしろ「生産性の伸びが鈍く、非常に大きな懸念事項」となっているということだ。つまり、議長自身にも利上げに関し“揺らぎ”がある。それを市場も見透かしている。

世界中の市場関係者が見守った8月のジャクソンホールでの議長の講演は、冒頭の「金利引き上げの論拠はここ数ヵ月で補強されたと思う」という内容に多くの焦点が当てられた。しかし、講演のメインテーマは、先行きに待ち構えるであろうリッセッション(景気後退)に対応して、FRBとしてどういう手段を講じることができるかという点にあった。議長は、これまでの量的緩和策は有効とした。

下方修正された経済見通し

今回、FOMC参加メンバー全員による金利など経済見通しも公表されたが、利上げの意向を示したタカ派的声明文の一方で、こちらは金利や経済成長などの予想は下方修正された。つまり見通しは、ハト派的なものといえた。

今年の成長予想の中央値は6月時点での2.0%から1.8%に、2017年は2.0%を持するものの長期的な見通しはやはり2.0%から1.8%に下方修正された。利上げ回数も年内2回から1回に、2017年も従来の3~4回から、2~3回に下方修正となった。ちなみに、1年前のFOMCでは2017年末の金利水準(中間値)の予想は2.6%となっていた。今回は1.1%と大きく下がることになった。

結果を受け、上昇となった金市場の反応だが、織り込み済みの12月利上げよりも、この先行きの金利水準の低下予想がサポート要因となっている。実際にFRB内部でも、経済成長にここまで想定していた加速が見られないことへの見直しが進んでいるとみられる。

イエレン議長も記者会見で、「米国経済にみられるニューノーマル(新常態)に関し、一連の困難な問題に直面している」とし、それが金利見通しの下方修正につながったとしていた。以前とは異なり、政策に対する経済の反応度合いが予想外に鈍いことを、当初は時間の問題で快方に向かうとみていたところ、「あまりにペースが鈍いのは、構造変化により起きている可能性」に検証を進めているようだ。

金を含め市場全般に一波乱ありそうな12月

ありていに言うならば、成長率自体にこの先もスピード感が出ないことを懸念し始めている。FRBは、過熱感のない中というか以前であれば停滞とも言うべき環境下(低成長率の下)で利上げに向かおうとしているわけだ。そこに無理を感じているのが、ブレイナード、タルーロという2人のFRB理事で、この2人は今回、年内利上げナシに票を投じたことは間違いなかろう。

仮に12月に引上げられたとしても、その先、つまり来年は当面見合わせということになりそうだ。12月に予定通り引き上げられるなら、当面は“材料出尽くし”ということで、金市場はむしろ動きやすくなると思われる。

心配されるのは、過去最高値圏にあるNY株と米国債(過去最低利回り圏)だろう。いざ利上げに動いたとなると、値動きが大きくなりそうだ。足元の金市場から、資金が逃げそうでなかなか逃げない背景でもある。

ならば年内の利上げができなかったら、どうなるか。筆者はその可能性を説くものだが、見送らざるを得ない環境から考えて、来年の利上げはさらに難しくなろう。結局、年末までNY金は徐々に水準を切り上げ、その後は12月のFOMCを境に動きが大きくなるとみられる。(グラフ参照)

上か下かと問われれば、上と自信を持って答えたい。FRBが考えている金利の落としどころ自体が低下していることが、金市場には仕上げ要因となろう。前回8月29日のレポートと中心となる考え方に変化はない。

金価格の推移

《執筆者紹介》

亀井 幸一郎(かめいこういちろう)
マーケット ストラテジィ インスティチュート代表取締役、金融・貴金属アナリスト、1979年中央大学法学部法律学科卒業。山一證券に8年間勤務後、1987年投資顧問会社で日本初のFP会社でもあるMMI入社。1992年ワールド ゴールド カウンシル(WGC/本部ロンドン入社。企画調査部長として経済調査、世界の金情報の収集、マーケット分析、市場調査に従事。2002年現職。「急騰前に金を買いなさい」(廣済堂出版)など

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