日産証券CXレポート

原油 材料難のなか、弱保合か

 

 2016年9月5日(月)
立正大学経済学部教授
林康史

40ドル付近で反発

8月8日の本欄で、「原油価格は8月3日に40ドルを割り込み、39.19ドルを付けたことから、自律反転の上昇が終了したのではないか」と述べました。しかし、その後、原油価格はこの価格を下値に、右肩上がりで上昇しています。この背景には、新たに増産凍結へ向けての動きがあり、需給が引き締まるのではないかという期待があります。

新たな話し合いの場

「増産凍結へ向けた話し合いが行われるのではないか」と見られているのは、産油国会議でもOPEC総会でもなく、9月26~28日にアルジェリアで開催予定の国際エネルギー・フォーラム(IEF)です。IEFとは、「国際約束に基づき設立された国際機関ではなく、石油・ガス等の産出国と消費国の閣僚レベルでエネルギー政策に関わる非公式な対話を行う(場)」(外務省HP等より)です。

ただ、今回はサウジアラビアのハリド・アルファリ産業鉱物資源相が「フォーラムに合わせて、原油市場を安定させるために必要な措置に関して、OPECならびに非OPECが話し合う機会が生まれた」とコメントしており、OPECは、この国際エネルギー・フォーラムに合わせて非公式会合を開催することを明らかにしています(非公式会合時に、非公式会合を併せて行うと発言しているということです)。 産油国会議でもOPEC総会でも増産凍結が合意に至らなかった原因であるイランですが、今回の非公式会合については参加の意向を表明しています。それに加え、5月には原油生産量が日量350万バレルを回復して制裁前の水準に達したため、増産凍結計画を支持する用意があると発表しています。ちなみにその後、6月には360万バレルを超える水準となり、さらに増加しています

ただ、産油国会議の際もそうであったように、直前になって欠席することも考えられます。イランの戦略は、制裁前の原油生産量の水準を維持していることを示すことができたので、それを既成事実として他の産油国に認めさせることを前提にして会議に出るということでしょう。

何が何でも(原油価格がいくらであっても)輸出せざるを得ないという状況から脱し、少し落ち着いた(とりあえず、生産量は目標は確保したし、当面の金銭的困窮の危機は脱した)ので会合のテーブルに着く用意はあるということでしょう。非公式会合であれば出席するというのは、拘束される可能性があれば話し合いには出ないということであり、「自らの犠牲を伴わない場合にのみ参加する」という態度の表明だと考えるのが順当かもしれません。

中国の景気減速と原油安の関係

原油に強気になれない情報もあります。中国は昨年10月頃から、過剰生産能力の解消を進めようとしていますが、「石油精製も生産能力過剰産業だ」と指摘されています。そうしたなか、中国の景気減速・原油安で中国の石油産業(中国のGDPの1割程度を占める)が急失速して、ペトロチャイナ(中国石油天然気)、シノペック(中国石油化工)、CNOOC(中国海洋石油)の上場3社は、2016年1~6月期決算の純利益が合計で前年同期比8割減となりました。

ペトロチャイナは輸出を増やす方針で、今後も国内で余った分を輸出に振り向けると思われ、それは原油安バイアスとなります。また、カナダ(CNOOC)やスーダン(ペトロチャイナ)等での海外投資でも含み損を抱えている模様です。

中国は、アフリカや南米で、地下資源確保等の目的で、各国政府に対して取り込む施策の一環として、無理をして融資・投資を行っていますが、うまくいかなくなり始めているようです。筆者は、現在、南米にいて、しばらく後にエクアドルに向かいますが、原油安の影響もあって、財政破たんも懸念されるなか、エクアドルの石油関連への中国の投資の成否が気になるところです。中国経済と原油は、負のスパイラルになっていると考えられます。

今後の展開

IEFに併せて行われる非公式会合までは、各国の要人の発言を材料にある程度上下するでしょう。とはいえ、まだ現時点では、依然として需給が緩い状況は変わっていません。大局的には、増産凍結について合意がなされたわけでもなく、イランの参入分だけでも確実に需給は緩くなっており、増産凍結について劇的な状況の変化がない限り、自律反騰以外には上昇する理由は考えられません。世界経済の先行き不安は増していて、増産凍結さらには減産の合意ができたとしても、原油価格の低迷は長引くと見られます。

基本、ファンダメンタルとしては弱保合(よわもちあい)という状況は変わっていないと考えます。

《執筆者紹介》

林康史(はやしやすし)
立正大学経済学部教授。大阪大学卒。法学修士(東京大学)。メーカー、金融3業態を経て、現職。<著書・訳書>『改定版 基礎から学ぶ デイトレード』、『トレーダーの発想術――マーケットで勝ち残るための70の箴言』(訳)『株式投資 第4版』(共訳)『デイトレード』『マネーの公理』『運とつきあう』(以上、監訳)以上、日経BP社、『戦略的リスク管理入門』(監訳)勁草書房、ほか多数。

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