日産証券CXレポート

金、上昇トレンド変わらず

 

 2016年8月15日(月)
(株)資源・食糧問題研究所
代表 柴田明夫

ニューヨーク金相場は7月以降、1オンス=1300ドル台を固める動きにある。金は7月6日に1374ドルを付け、英国のEU離脱(ブレグジット)決定直後の6月24日に付けた高値1362ドル(前日比99ドル高)を更新した。

その後、7月末にかけて利益確定の売りに押されたものの、1300ドルの下値は固く、8月上旬にかけて再び1370ドル台まで上昇し、約2年ぶりの高値圏にある(図1)。

追加利上げは弱材料

チャート的にも、昨年12月3日の1048ドルを下値に、ほぼ一貫して上昇トレンドを維持している形だ。とはいえ今後、金が次の目標である1400ドルを試すには幾つかの売り材料を消化する必要がある。

1つ目は、米連邦準備銀行(FRB)の追加利上げ観測だ。8月5日に発表された7月の米雇用統計で、非農業部門の就業者数が前月比25.5万人増となり、市場予想の同18万人を大幅に上回った。特に、6月の同29.2万人増に続いて2カ月連続で景気拡大の目安となる同20万人増を上回ったことから、市場では米連邦公開市場委員会(FOMC)での早期追加利上げ=ドル高への警戒感が強まり、金が1300ドル台前半まで売られる格好となった。一般に、ドル高はドル建ての金に割高感が浮上し、金売りが先行する(ドル安は逆)。

予測下回ったGDPは追い風

一方、7月29日に発表された4~6月期の米国内総生産(GDP)速報値が、前期比年率1.2%増と、市場予測の同2.6%増を大きく下回ったことを考慮すると、「FRBは追加利上げには慎重」との見方が根強いのも事実である。

この場合は、金には追い風となる。ちなみに、年内のFOMCは9月(20~21日)、11月(1~2日)、12月(13~14日)に開催される予定だ。今のところ、追加利上げは早くても12月との見方が大勢のようだ。

なお、過去の経験によれば、金相場と米実質金利(米国債10年物金利―消費者物価)については、①実質金利が3%超であれば金相場は低迷し、②実質金利がマイナスに向かうとインフレ期待から金が買われ、③実質金利が0~3%未満であれば総じて金相場は底堅い、といった関係がみられる(図2)。ちなみに、7月末時点では、米10年物国債利回りが1.45%、消費者物価上昇率(CPI)1.00%であり、実質金利は0.45%と金が買われやすい②の局面にある。また、欧州および日本のマイナス金利は、金にとっては、本来「金利が付かない」というデメリットを打ち消すことになるため、相場の支援材料といえよう。

NY株式の高値警戒が必要

2つ目は、ニューヨーク(NY)株価と金との関係だ。NY株価は8月中旬にかけて、米国の長期金利低下や一部企業業績の好調を背景に、1万8600ドル台と史上最高値を更新した。さらに、FRB内には早期追加利上げには慎重な見方が根強いことも市場のリスクオフ(積極的にリスクを取る)姿勢を強めており、金にとっては短期的な利益確定の売り材料となる。逆に金が買われるためには、NY株式市場に高値警戒感が生じる必要がある。

原油市場の混乱は強材料

3つ目は、原油市場の混乱によるリスクオンといった状況も必要だ。NY原油相場は、6月の高値1バレル=50ドルから急落し、8月2日には一時1バレル=40ドルを割り込んだ。しかし、その後は44ドル台まで値を戻した。原油安に伴い、石油輸出国機構(OPEC)内で供給過剰への警戒感が強まり、再び増産凍結に向けた動きが見られるようになったためだ。

この間、金は原油が急落する過程で買われ、逆に原油が反発する過程で売られている。増産凍結が市場の関心を集めている間は、金は上値が重くならざるを得ない。

(図1)
NY金および円/ドル相場の推移

(出所)NYMEX

(図2)
米国の実質金利と金価格

(出所)NYMEX、米商務省他

《執筆者紹介》

柴田明夫(しばたあきお)
資源・食糧問題研究所代表 1976年東京大学農学部卒。同年丸紅入社。鉄鋼第一本部、調査部等を経て、2002年に丸紅経済研究所主席研究員。同副所長を経て、2006年同所長。2010年同代表。2011年に資源・食糧問題研究所を設立、代表に就任。<主な著書>『食料争奪』(日本経済新聞出版社)、『水戦争』(角川SSC新書)。

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