日産証券CXレポート

NY金“マクロ型”上昇相場に加わったイベント型急騰

 

 2016年8月1日(月)
金融・貴金属アナリスト
亀井 幸一郎

英国のEU離脱騒動の混乱の中で1300ドル台を大きく上回った金価格。それは年始以降の上昇トレンドの中で初めてイベントに反応した上昇だった。では、そこに至るまでの上半期の上昇は何を映したものなのか。

「英国のEU離脱騒動」に反応した上昇

年始から上昇トレンドが続いている金市場だが、英国のEU離脱騒動(“Brexit、ブリグジット”)以降の市場の混乱の中で記録した1377.50ドルがここまでの高値となっている(グラフ参照)。実は年始から続く上昇トレンドの中で、6月24日以降の急騰が、今年に入って初めての「イベント」に反応した(event-driven)上昇という位置付けとなる。

過去3年間を振り返る(添付チャート)と、チャート上の節目となる高値には必ず何らかのイベントがからんでいた。順を追うと以下のようになる。

① 15年1月22日1307.80ドル スイス中央銀行(SNB)による為替の無制限介入の終了宣言
② 14年7月10日1346.80ドル 南欧諸国の銀行の不良債権問題
③ 14年3月17日1392.60ドル ロシアによるクリミア実質併合騒動
④ 13年8月28日1434ドル オバマ大統領シリア大規模空爆宣言(後に撤回)

チャート

イベント型反応は短期で終わる

そしてここに今回の“Brexit”が加わることになった。金市場に特有の地政学的材料を含め、こうしたイベント反応型(event-driven)の上昇は、持続期間が比較的短期に終わることが多いのが特徴だ。それは、イベント発生による状況の変化を市場は織り込みにかかること、また、イベントに反応してファンドが先物市場で買い建て(ロング)を一気に増やすことで、過熱感が高まり市場内部の需給要因の悪化(ロングに偏る)からその後の調整局面入りにつながることによる。

イベント反応型(event-driven)上昇につきものの調整局面

今回“Brexit”後にニューヨークCOMEXの先物の取組は急増し、米CFTC(商品先物取引委員会)のデータでは、7月5日時点のファンドの買い越し残は重量に換算して過去最高を更新する982トン(オプション取引を除く)まで膨らんだ。先物取引の「買い建て」は将来の“売りで決済される”もの。1,000トン近い売り予約が並ぶとなると、さすがに上値は重くなる。

折しも“Brexit”判明以降に発表された米6月の雇用統計では、雇用者数の増加が前月比で28万人台と大きく上振れたこともあり、一時は消えた年内利上げ観測が復活したことも、金市場では調整局面入りを促すことになった。7月29日に発表されたデータ(7月26日時点)では、ファンドの買い越し残は867トンと、直近ピークからは115トン減った。それでも金価格はこの間の下値が1310.7ドル(7月21日)と“Brexit”で躍り出た1300ドル台を維持している。調整局面入りしている相場としては、“強い”といえる。

イベント型に対するマクロ型上昇

それは今回の上昇相場が、もともとイベント型ではないことがある。日銀のマイナス金利導入以降、新規資金の流入拡大で上値追いを鮮明にした金市場だが、日米欧主要中銀による金融政策の落としどころが見えないことへの懸念を映したものといえる。

また、頻発するテロや流動化するEUにトランプ旋風など、政治的な不安定要因も反映されている。いずれも一過性とはいえず、過去3年間のトレンドの中では質的に異なるゆえに、息の長い相場となりそうだ。名付けるならば「マクロ型」上昇相場というところか。

7月29日に発表された米4~6月期GDP成長率は、市場予想前期比年率+2.6%に対し+1.2%にとどまった。合わせて昨年10~12月期が当初の+1.4%から+0.9%に、2016年1~3月期が+1.1%から+0.8%にそれぞれ下方修正されることになった。

経済成長にスピード感が出ないことは、リーマンショック後の大きな特徴ではあるが、ここにきて世界的な政治的不透明感の高まりもあり、企業が慎重姿勢を貫いていることがある。こうした環境下では、雇用にも陰りが出る可能性があり、連邦準備理事会(FRB)も慎重姿勢を取らざるを得ないだろう。結局、NY金の調整局面は早々に値幅調整を終え、日柄整理という局面に移行しているようにみえる。

《執筆者紹介》

亀井幸一郎(かめいこういちろう)
マーケット ストラテジィ インスティチュート代表取締役、金融・貴金属アナリスト、1979年中央大学法学部法律学科卒業。山一證券に8年間勤務後、1987年投資顧問会社で日本初のFP会社でもあるMMI入社。1992年ワールド ゴールド カウンシル(WGC/本部ロンドン入社。企画調査部長として経済調査、世界の金情報の収集、マーケット分析、市場調査に従事。2002年現職。「急騰前に金を買いなさい」(廣済堂出版)など。

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