日産証券CXレポート

安全資産としての金は、長期上昇トレンドへ

 

 2016年7月19日(火)
(株)資源・食糧問題研究所
代表 柴田明夫

金相場は6月末以降、1オンス=1300ドル台を維持している。ニューヨーク金相場は6月24日、英国でのEU離脱(ブレグジット)決定を受けて一時1362ドル(前日比99ドル高)と2014年7月以来、約2年ぶりの高値を付けた。アジア市場での株価急落に続き、世界同時株安の様相を呈するにつれて安全資産としての金に買いが殺到した格好だ。7月6日には1367ドルと、ブレグジット直後の高値を更新した。

その後、金融市場が落ち着きを取り戻したことで、投資家のリスク回避姿勢が後退すると、金は7月中旬にかけて1320ドル台まで下落した(図1)。特に、①米国の6月の雇用統計で、非農業部門の就業者数が前月比28.7万人増加し市場に楽観的見方が広がった、②原油も1バレル=48ドルまで値を戻した、③ニューヨーク・ダウ株価が1万8500ドル台に乗せ史上最高値圏にある、などが短期的な金の売り圧力となった。とはいえ、先行き不透明感が強まる中、金は足元では1300ドル台を固める動きにあるといえよう。

図1
チャート
(出所)NYMEX

問題は、中長期的に金市場をどう見るかである。この点、今回のブレグジットが、世界経済にとっての長期的混乱の始まりとみれば、金はリスク分散の有力な手段として投資魅力を強めることになろう。主に3つの要因が金相場の支援材料である。1つは米連邦準備銀行(FRB)の利上げが難しくなったことだ。確かに6月の雇用統計は予想以上の好調であったものの、7月下旬のFOMCでFRBが追加利上げに踏み切ることはあるまい。ブレグジット問題でドル高やドル不足の懸念が浮上しているのに対し、FRBは市場への資金供給を最優先する考えだ。

2つ目は、ブレグジットの連鎖懸念だ。残留派であった英国のテリーザ・メイ新首相は、「離脱は離脱(Brexit means Brexit)」との姿勢を示している。今後、EUとの間では、離脱の表明―交渉および個別通商取極め―合意―批准に至るまで7~10年かかるとの見方もある。さらに離脱派の主張の根底にあるのは移民への不満で、これがフランス、ドイツ、オーストリア、ギリシャなどの離脱派に波及すれば、離脱のドミノ現象が起こりかねない。

第3に、地政学リスクの高まりを背景に、金の実需が増えていることだ。ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、今年1-3月期の金需要は1290㌧で前年同期比21%増加した。背景には、イスラム国(IS)の同時多発テロに伴う地政学リスクの高まりに加え、日本や欧州中央銀行による「マイナス金利」の導入で、先行き不透明感が高まったことがある。新興国の中央銀行が着実に金外貨準備を増やしているのも金の強材料である。特に、2014年~16年3月にかけて、中国744㌧増(1054→1798㌧)、ロシア252㌧増(1208→1460㌧)と増勢が目立つ(図2)。ロシアは、原油価格の低迷と欧米の経済制裁継続により、リスク管理目的で金準備の拡大を迫られている。中国も経済的・地政学的リスクが高まる中で、ドル外貨準備の分散先として金準備を積極的に積み増している。

図2
チャート
(出所)WGC

安全資産としての金は、長期的な上昇トレンドに入った可能性が高い。

《執筆者紹介》

柴田明夫(しばたあきお)
資源・食糧問題研究所代表 1976年東京大学農学部卒。同年丸紅入社。鉄鋼第一本部、調査部等を経て、2002年に丸紅経済研究所主席研究員。同副所長を経て、2006年同所長。2010年同代表。2011年に資源・食糧問題研究所を設立、代表に就任。<主な著書>『食料争奪』(日本経済新聞出版社)、『水戦争』(角川SSC新書)。

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