日産証券CXレポート

英国のEU離脱   2016年7月11日(月)

 

立正大学経済学部教授
林康史

英国のEU離脱(BREXIT)

最近、世界経済にとってのビッグ・イベントは、やはり英国のEU離脱でしょう。6月23日の国民投票で、事前の残留派優勢という予測とは異なり、離脱派が勝利するという大きなサプライズが起きました。ドル/円の為替相場も開票速報にあわせ、一日の中で大きく上下しました。開票時間に開いていたのが日本市場であったということもあり、世界的に見ても日経平均は非常に大きな下落幅でした。

原油価格への影響も大きく、6月23日の終値が50.11ドルであったWTI原油は、2日間で7~8パーセントほど下落し、27日の終値では46.33ドルを付けました。

相場のコツ(その1)

私見では、マーケットで勝つ最大のコツは、「コンセンサス(マーケットの共通認識)と現実に起こったことのギャップを(事前に)読むこと」です。今回のBREXITの例でいえば、「“残留派が勝つ”がコンセンサスだと知って、それと違うことが起こった時に、相場がどうなるか」を事前に考えることです。今回は、私自身の予想が“残留派が勝つ”でしたが、「そしたらどうなる?」「そうでなかったらどうなる?」を考えるわけです。原油はどうなるかと考えたとき、「残留派が勝てば、コンセンサス通りでマーケットはあまり反応しない(織り込み済み)」、「離脱派が勝てば、大騒動の可能性あり」でした。大騒動の場合、「世界経済の混乱→石油の需要の減少(予想)→石油安」が考えられたわけです。もちろん、必ずしもうまくいくとは限らないのですが、少なくとも自分のポジションが最悪になるケースについても考えておくことが必要だということです。「人はすべてを知りえない」(『オデュッセイア』の言葉)。だからこそ、いろいろなケースに思いを馳せることが必要なのです。

相場のコツ(その2)

ロングストリートが商品相場の見方について書いた『トレーダーの発想術 マーケットで勝ち残るための70の箴言』(日経BP社)という優れたエッセイ集があります(私が翻訳しているので、勧めにくくもありますが、必読書だと思っています)。その55番目は、「休むも相場」です。「大きなチャンスを逃すまいと思うあまり相場から手を引くことを恐れる、といった状況に自分が置かれていると気づいた」なら、「本質を突く質問を二つばかり自らに投げかけてみるとよい。まず、これが人生唯一のチャンスなのか。次に、万一それが絶好のチャンスだとして、それを充分ものにできるだけの、精神的、体力的、資金的な備えができているのか」と述べています。『トレーダーの発想術』の11番目は、「跳ぶ前に見よ」です。そこには、「自分が何を知っているのか」とあります。

BREXITに思う

いつものことですが、マスコミが大騒ぎしていますが、そんなに大したことなのでしょうか。英国にとっても、プラスのこともあります。よくよく考えると、共通通貨に参加していなかったことから得られていたメリットもあります。景気も大陸とは連動しにくいし、いろいろなポリシーミックスも取りやすい。少なくとも、政策の自由度は格段に上がる。今回も、EUが露骨な英国いじめをできるはずもありません。実は、BREXITは、ロンドンの金融業界の連中にとって、建前とは違って、本心は「快哉!」だと思います。

それにしても、国民投票をやろうと言った首相は軽薄ですし、高度の民主主義は、愚民にぐちゃぐちゃにされるということがはっきり示されたということかと思います。どんなものにしろ、制度が崩壊するのは必然で、将来、長きにわたってよく持ったという評価もあるかもしれません。いずれにせよ、BREXITについては大騒ぎしすぎの感じもします。

地政学的リスク

BREXITとマーケットの反応は一時的なものと考えます。今後もこのリスクオフの流れがずっと続くとは考えにくい。現状の世界経済の先行きが不透明なことから一時的な資金の引き上げはありえますが、英国が実際にEUから離脱するとしても2年ほどはかかるわけであり、マーケットも落ち着きを取り戻す可能性が高いと思われます。しばらくは、新しい材料を探りつつの往来相場となると思います。

《執筆者紹介》

林康史(はやしやすし)
立正大学経済学部教授。大阪大学卒。法学修士(東京大学)。メーカー、金融3業態を経て、現職。<著書・訳書>『改定版 基礎から学ぶ デイトレード』、『トレーダーの発想術――マーケットで勝ち残るための70の箴言』(訳)『株式投資 第4版』(共訳)『デイトレード』『マネーの公理』『運とつきあう』(以上、監訳)以上、日経BP社、『戦略的リスク管理入門』(監訳)勁草書房、ほか多数。

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