日産証券CXレポート

金、英EU離脱後の世界的な緩和進展で一段高へ

 

2016年7月4日(月)
金融・貴金属アナリスト
亀井 幸一郎

金価格は、5月下旬にかけてイエレン議長を含むFRB高官が6月14~15日のFOMC(連邦公開市場委員会)での利上げを強く示唆したこともあり、NYコメックスでは8営業日連続安となった、ただ、1,200ドルの節目は維持された(グラフ参照)。

チャート

その後、6月3日に発表された5月の米雇用統計で前月比の雇用者増加数が3万8,000人と予想外の弱気な内容となったこともあり、FOMCでの利上げは見送られた。さらに声明文とともに公表された経済見通しにて、金利見通しが下方修正されたことを好感、金は1,300ドル台を回復した。

英国のEU離脱で急騰

そこに加わったのが、6月23日に行われた英国のEU(欧州連合)離脱の是非を問う国民投票である。これが、大方の予想に反して「離脱」と決まり、大勢が判明すると金は急騰した。24日のNY時間外のアジアの取引時間帯に100ドル超の値動きとなり、2014年7月10日の1,346.80ドルの高値を超え1,368.80ドルまでみた。

ただ、この日のNY時間外のアジアの時間帯での突出した動きは直ぐに沈静化し、同日のNYコメックスの値動きは1,310ドル台で安定的に推移し、6月最終週も1,320ドルを中心として上下10ドル幅のレンジ相場となった。これまでおおむね,1250~1、300ドルのレンジが、いわゆる“Brexit(英国のEU離脱)”騒動を経て1,300~1,350ドルへと50ドルほどレンジが切り上がったとみている。

NY先物市場は過去最高の買い越し残

1NYコメックスにて買いが増えたことはデータでも明らか。7月1日に発表されたCFTC(米商品先物取引委員会)のレポートによると、28日時点でのオプション取引を除く大口投機家(ファンド)の買い越しは30万1,920枚(1枚=100オンス)、重量換算で939トンと、2週連続で過去最高を更新した。これだけの規模の買い建玉が虎視眈々と利食いの機会を待っている状況にある。実際に、“Brexit”以降の市場で上値が重くなったのは、断続的な利食い玉が出ていたものと思われた。ただ、ここに至る経緯(前週から過去最高の買い建て)からすると、 “Brexit”を警戒して買い建玉が増えていたことから、金市場はその可能性を読んでいたとも表現できよう。この点でサプライズとなった結果に足元をすくわれた形の株式市場や為替市場とは立ち位置が異なるということである。

米雇用統計が良好ならロングの手仕舞いも

いずれにしても金市場の内部要因は、買い(ロング)に偏った状態にあり、次の節目となる2014年3月の1,392.60ドルの高値を目指すには、ひとまずロング(買い建て玉)の整理が進むことが望まれる。

その意味では、7月8日に発表される6月の米雇用統計が予想以上に良好な内容になると、ロングの整理が進むかもしれない。調査対象となる6月12日を含む週の米失業保険申請件数が低水準だった中で、前月の内容が極端に悪かったことからその反動も加わって回復すれば、その可能性が高まろう。同時に6月のデータの修正値にも注目が集まることになろう。ここで取組の整理が進んだほうが、再上昇に向かいやすくなると思われる。

“Brexit(ブリグジット)”に予想される日英欧のさらなる緩和策

外部環境は金の押し上げ材料がそろっている。欧州では多くの銀行の財務内容が脆弱な状態だが、今回の金融市場の動揺を受けて銀行財務への懸念が高まっている。さらには、今回の動揺を受けてFRB(米連邦準備理事会)の利上げがしばらく遠のいたことも好感できる。

また、今回の市場の動揺でドル高が進んだことで、人民元相場が一段と下がっていることも注目される。10月1日に国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)の構成通貨に正式採用が控えているだけに中国当局も下落幅を抑えようとしよう。それでも足元で資本逃避的な人民元安圧力が高まっているようだ。 中国ではゾンビ化した国有企業の整理淘汰から銀行の不良債権が積み上がりつつある。民間部門が失速状態に陥りつつあるほど景気が減速しているとみられるが、資金流出に拍車がかかってさらに人民元安圧力が高まる可能性がある。それは国際金融を動揺させる。

利食い売りが先行しても強含みか

こうした状況では、短期的に利食い売りが先行しても、金は強含みそうだ。英国の中銀バンク・オブ・イングランドがこの夏に利下げする可能性が高く、欧州中銀(ECB)のさらなる緩和策推進もありそうだ。こうした環境の中で、見送りが確実視される7月のFOMだが、声明文がハト派的なら、金は上値をさらに拡大することになりそうだ。

《執筆者紹介》

亀井幸一郎(かめいこういちろう)
マーケット ストラテジィ インスティチュート代表取締役、金融・貴金属アナリスト、1979年中央大学法学部法律学科卒業。山一證券に8年間勤務後、1987年投資顧問会社で日本初のFP会社でもあるMMI入社。1992年ワールド ゴールド カウンシル(WGC/本部ロンドン入社。企画調査部長として経済調査、世界の金情報の収集、マーケット分析、市場調査に従事。2002年現職。「急騰前に金を買いなさい」(廣済堂出版)など

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