日産証券CXレポート

米の6月利上げが消え、金は1300ドルに再トライか

2016年6月6日(月)

金融・貴金属アナリスト
亀井 幸一郎

貴金属市場のみならず市場横断的に注目を集めた週末6月3日発表の5月の米雇用統計。(非農業部門の)雇用者増加数が市場予想を大きく下回り、まさにサプライズとなった。前月比16万人増が予想された雇用者数は、わずか3万8,000人の増加にとどまり、5年8ヵ月ぶりの低水準となった。あわせて4月分は当初の16万4,000人増から12万3,000人増に、3月も20万8,000人増から18万6,000人増に下方修正された。

5月に入って以降、発表される米経済指標には強気のものが増え、多くの地区連銀総裁などFRB(連邦準備理事会)高官による「6月FOMC(連邦公開市場委員会)での利上げが適切」との発言が急速に市場に広がっている中でのことだった。 今回の雇用統計は6月14~15日に開かれるFOMCを前に発表される最後の重要指標ということで、利上げに向けた試金石という位置付けだった。5月は米通信大手ベライゾン・コミュニケーションズで賃上げストがあり、同社の職員3万5,000人が一時解雇扱いとなるという事態はあったものの、それを考慮しても3万8,000人は衝撃的な結果といえる。

雇用統計は遅行指数

問題は、「雇用統計は遅行指数」と目されていることだ。つまり、少し引いて経済全体を俯瞰するならば、すでに米国景気は下降に入っていることを表しているともいえる。

もっとも、単月のデータが悪いからといって、そうした判断をFRBもしないし、そう判断したら、拙速とのそしりは免れないだろう。しかし、米国経済はすでに回復期に入ってから今月で7年を経過し、8年目に入ろうとしている。過去の景気循環では次の下りにいつ入ってもおかしくないタイミングとなっている(平均的に7~8年でピークアウト)。あるいは遅行指数として、この1~3月期の米国景気は減速したのだが、それが今表れたという捉え方もできよう。

いずれにせよ、来週の14~15日のFOMCでは利上げは見送られることは確定的と思われる。本日(6日月曜日)は、フィラデルフィアでイエレン議長の講演が予定されている。

発言内容で市場の動きは大きくなるが、週末の結果をどう評価するかが見ものとなった。利上げの方向性は未だ探るということだと思うが、問題は5月27日にハーバード大学で行った対談に際して使い金市場の売り材料となった(利上げメドは)“in coming month(数ヵ月以内)”という見方に変化があるか否かである。

雇用統計発表日のブレイナードFRB理事の発言に注目

今回、私が注目していたのは、雇用統計が発表された同じ3日午後にワシントンで講演予定となっていたブレイナードFRB理事(女性)の発言だった。時間的に雇用統計の結果を受けた上での発言ということを越えて、以前からブレイナード理事は利上げには慎重姿勢で知られ、12月の利上げにも反対の意見を持っていたと目されている。

一般に、失業率が低下し、完全雇用に近づく環境下では早晩、賃金上昇に火が付き、インフレ率は上昇するというのが広く受け入れられている経済理論(フィリップス曲線)だが、同理事は経済構造の変化でそれは起こりにくくなっていると唱えている。

この点、FRB内部でも意見の割れがあるとみられていた。同理事は、3日の講演の後の司会者との対談で、雇用統計について「厳しい内容」で「全般的に労働市場が減速したことを示唆している」とした。

また、「国内活動が力強く持ち直したとの確信や近い将来の国際イベントが米金融当局の目標に向けた前進を妨げることはないとの確証を得るまで、追加のデータを待つことが有益になる」とした。

要は「確信が得られるまで利上げは待とう」ということであり、「見切り発車はすべきではない」との主張である。昨年10月からこの考え方に変わりはないようだ。

ちなみに彼女は、民主党の大統領候補ヒラリー・クリントンに近く、ヒラリー政権が誕生すると、初の女性財務長官になると目されている人物でもある。

米の利上げ観測で上下動続こう

さて金市場の方は、5月中は2日に記録した昨年1月以来の高値1,306ドルから月末の1,201.50ドルまで79ドル、6%の値下がりとなった。これはCFTC(米先物取引委員会)発表のファンドのネット買い残が5月3日時点で845トン(オプションを除く)と過去最大規模まで膨れ上がっていたという内部要因悪化による自律的調整が起きたこと、その途中で先に触れたFRBによる6月利上げ観測の高まりを受け、ドル高の中での金の売りが膨らんだ結果によるものだった。

膨れ上がった買い残から市場関係者の間で調整を予想する声が高まるのは、経験則に沿ったものだ。今回は、この間も金ETF(上場投信)には、記録的な資金流入が続いていたことから、先高観は持続していた。実際に1,200ドルを割ることはなかった。

結果的にはNYコメックスのファンドのネット買い越し残は、ピーク時から3割近く減少したところで、雇用統計の発表となった。当日のNY金先物価格は30ドルほど上昇し1,242.90ドルで終了した。この先は7月のFOMCでの利上げ観測の強弱の波に金価格も上下に振れると思われるが、5月2日の直近高値1,306ドルを目指し上昇基調に戻りそうだ。

「FRB(連邦準備理事会)の理事構成」 7名中現在は2名空席

  • イエレン議長・・・・・・ハト派
  • フィッシャー副議長・・・中間
  • タルーロ理事・・・・・・ハト派
  • ブレイナード理事・・・・ハト派
  • パウエル理事・・・・・・ややタカ派
  • ※理事は大統領が指名し米上院の承認を経て任命される。オバマ大統領の指名人事が共和党優勢の上院で承認を得られないことから2名の空席が続いている。なお、ハト派、タカ派の表記は過去の発言内容から筆者の判断によるもの。

    《執筆者紹介》

    亀井幸一郎(かめいこういちろう)
    マーケット ストラテジィ インスティチュート代表取締役、金融・貴金属アナリスト、1979年中央大学法学部法律学科卒業。山一證券に8年間勤務後、1987年投資顧問会社で日本初のFP会社でもあるMMI入社。1992年ワールド ゴールド カウンシル(WGC/本部ロンドン入社。企画調査部長として経済調査、世界の金情報の収集、マーケット分析、市場調査に従事。2002年現職。「急騰前に金を買いなさい」(廣済堂出版)など

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