日産証券CXレポート

どう関係、原油と株価 2016年5月16日(月)

立正大学経済学部教授
林 康史

産油国会議の裏舞台

4月18日に産油国会議が開催され、注目されていた増産凍結については、「イランの不参加により合意に至らず」という結果になりましたが、追加情報を少し紹介したいと思います。

現在、サウジアラビアは、王室内での反発もあると言われますが、ムハンマド・サルマン副皇太子(兼第2副首相兼国防大臣兼経済開発評議会議長)が実権を握っていると言われます。

ムハンマド副皇太子は、1000人いると言われる王子の一人(サルマン国王の子、つまり、初代国王の孫。皇太子ムハンマド・ビン・ナイフの甥)で、将来的に皇太子を飛び越して第8代国王に就任するかもしれないと言われる人物です。現国王ら(初代の子ども世代)は高齢で、初代の孫世代に指導者が移っていくということのようです。ついでながら、フルネームの、ムハンマド・ビン・サルマン・アル=サウドの頭文字をとって、MBSと呼ばれるようです。

減産合意、MSBの発言でご破算に

さて、追加情報というのは、先の産油国会議でも、イランの不参加はわかっていたので、各国の事務方としては、なんらかの増産凍結の合意について発表する予定だったのですが、最後の段階で、MBSの鶴の一言でご破算となったとのことでした。

MBSは、健康に問題を抱える現国王の代理として活躍し始めましたが、イランとの国交断絶、イエメンへの軍事介入等々、サウジの外交・軍事の意思決定を行っているようです。

国内の改革を推し進めようとしていて、先日も、女性の社会進出なども盛り込んだビジョン2030(筆者には、サウジの女性が社会進出して働くなどということは信じられませんが)を発表していて、“脱石油”社会を目指しています。

「原油安=株安」の怪

原油に限らず、現在、マーケットでは見通しが明確に立てられない状況が続いています。そういう時には、少し変な材料・見方が出てくることもあります。「原油安=株安」といった見方もその一つです。

「原油が下がっているということは中国経済が冴えないということで、これは世界経済にとってはマイナスとなり、したがって株安になる」という説明です。 だが、原油安になれば、株式は、どういう影響を受けるのでしょうか

著名な投資家ジム・ロジャーズは、株式と商品の相関関係について、次のように述べています。少し長いですが、短めにまとめてみます。

 商品市場全体の今後の展開を俯瞰しようとした場合、非常に大きな手がかりとなるのが株式市場の動向です。過去のデータから見ると、株式市場と商品市場の2つの市場における価格変動には負の相関があり、たいていの場合、逆の方向に動いています。
 この負の相関関係の理由としては、(『商品先物の実話と神話』によると)「景気循環に沿って(株と商品が)示す、互いに異なった動きによるところが大きい」ということのようです。これをもう少し単純に言い換えるならば、株式市場が下落しているか横ばいのとき、投資家は当然のごとくヘッジになる資産を探すので、「商品市場に資金が流入してくる」ということを述べていることになります。
 一般企業に置き換えて考えてみると、ある商品を原料として扱う会社があったとしましょう。その商品価格が低迷しているとき、コストを下げることができれば、利ザヤは大きくなり、利益は膨らみます。
 そうなれば当然、会社の株価は上昇します。このときは株優位の状態です。逆に、原料の商品価格が上昇したとすれば、コストが上昇し、利益が減少します。このときは株価も低下するはずですから、商品優位の状態にあるわけです。
 そして、この負の相関関係の周期(株優位であるか商品優位であるか)は、(バリー・バニスター氏らによれば)過去130年間を通してみたとき、平均して約18年のようです。
 株の商品に対する相対価格の上昇で考えてみますと、見事にその傾向が表れており、一般に好景気と言われる株価が上昇している時代には株優位の状態にあり、逆に、不景気といわれる株式市場が低迷している時期には商品優位の状態になっています。
 ただ、このような相関にも例外があります。それは、商品自体を生産したり、商品に関連する事業を行ったりする企業です。こうした企業については、もうお分かりになるとは思いますが、商品市場が好調のときには企業業績も上向きの状態、つまり株価も上昇するのであり、逆に商品市場が低迷していれば、それに伴って株価も低迷するということになります。この現象は、2008年に石油価格が高騰している際などに顕著でした。

『ジム・ロジャーズが語る 商品の時代』 日経ビジネス人文庫(2008年)p.58-64

しばらくは安値圏での強保合か

今回の原油価格の下落について言えば、原油価格が下落すれば、材料費や燃料費といったコストが安くなるので、売り上げが変わらなければ、企業の収益は上がることになり、つまり、株価は上がるはずです。

では、原油安と株安は、どう説明すべきなのでしょうか。

産油国系のファンド動向です。彼らが市場から資金を引き揚げているのです。「原油安ですから、その損失分を利が乗っている株式市場で利食って埋める」ということのようです(アメリカ株が下がれば日本株が下がるのと似た現象です)。確かに産油国系ファンドは、原油安の影響と株式の売り越しで、運用資産は激減しています。実は、サウジの脱石油宣言も、そういった背景があるわけです。

さて、足下では(米エネルギー情報局の発表などによると)米国内の原油生産量が減少しており、イランの増産も事前の予想を下回っていることなどから、直近のWTI原油先物は右肩上がりとなっています。5月12日には年初来高値47.02ドルを付ける場面も見られました。しばらくは、安値圏での強保合といったところでしょうか。

《執筆者紹介》

林康史(はやしやすし)
立正大学経済学部教授。大阪大学卒。法学修士(東京大学)。メーカー、金融3業態を経て、現職。<著書・訳書>『改定版 基礎から学ぶ デイトレード』、『トレーダーの発想術――マーケットで勝ち残るための70の箴言』(訳)『株式投資 第4版』(共訳)『デイトレード』『マネーの公理』『運とつきあう』(以上、監訳)以上、日経BP社、『戦略的リスク管理入門』(監訳)勁草書房、ほか多数

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