日産証券CXレポート

弱材料出尽くし、反転のタイミングを計る金 2016年3月22日(月)

立正大学経済学部教授
林康史

原油の減産は“我慢比べ”

レポートの執筆にあたって、「原油相場の動向」の本質的な見方を、その周りの相場や投資の哲学についても触れながら、お伝えしたいと考えています。読者が学びやすいように(相場観を自ら構築できるように)、わかりやすく述べていきたいと思っています。

まず、当面の材料について整理したいと思います。

OPEC(石油輸出国機構)の減産合意は困難

最大の産油国であるサウジアラビアが同意しない限り、減産合意の話は進まないわけですが、合意形成がなされない理由は、簡単に言えば“我慢比べ”です。減産合意で、恩恵を被るのは、“我慢比べ”に負けそうになっていた生産コストが高い国です。また、減産合意の恩恵を被るのは、非OPEC諸国です。自らは減産しなくてよく、他国が減産してくれるからです。自らは減産合意には加わらなくても、OPECが勝手に減産合意してくれればありがたいわけです。米国や、また、ロシアなども“漁夫の利”狙いということです。

最もコストが安いのはサウジアラビアで、バレル当たり4~10ドルと言われています。他国を利するわけにはいかないと、国民の不人気を承知で公共料金への補助金削減等の国民福祉の予算を削ってでも、この我慢比べに耐え抜く決意だろうと思います。“漁夫の利”阻止のために、必死の戦いというところです。

原油生産量の4割占める0PECは一枚岩ではない

石油輸出国機構(OPEC)とは、石油産出国の利益を守る目的の組織で、1960年に設立され、現在、加盟国は13ヵ国です(図表参照)。OPEC全体では、全世界の石油埋蔵量の3分の2、生産量の4割を占めています(シェールオイルを除く)。

OPECは一枚岩かというと、そうではありません。大きくは生産者という立場での利害は一致していますが、それぞれの国の事情もあり、OPEC加盟国同士は、味方でもありますが、同時に、当然、ライバルでもあるという関係にあります。皆が“抜け駆け”狙いということです。

イランは、核開発に関して経済制裁を受けていましたが、1月に解除されました。日本の石油元売り会社などでつくる「国際石油交流センター」も7年ぶりに技術協力を再開する方針です。イランでは、製油所の老朽化が問題になっていて、経済制裁の解除で、設備の整備も可能になるうえ、石油の販売先も広がるので、生産せざるをえない状況といえます。

サウジアラビアとイランの対立も激化しています。宗教対立でもあります(今回は詳細には触れません)が、政治的にもサウジアラビアにとってイランは天敵でもあります。サウジアラビアとイランの断交は、原油価格の上昇を狙った“出来レース”との見方もあるようですが、そんなわかりやすい構造とも思えません。両国の対立は中東全体を揺るがしかねないと思います(ただし、両国も、周辺諸国も、それを望んではいませんが)。根深い対立ですので、例えば今回のきっかけの一つと言われるイエメン情勢が好転したとしても、当面、両国の対立は解消されないでしょう。

産油国はシェールオイルと"我慢比べ“

米国は、シェールオイルの生産国でもあります。バレル当たり70〜90ドルがコストと言われていましたが、現在は、25~45ドル程度(コストの高い油田では80ドル程度)と言われています。米国とカナダで採掘され、「拡大する米国のシェールオイル生産によって今後5年の世界の石油需要増加分をほとんど賄うことができる」(IEA国際エネルギー機関)とも見られています。米国のシェールオイル関連企業の破たんもありましたが、掘削技術の進歩によってコストは低くなり続けています(ロシアやOPECにとっては、シェールオイル関連企業の破たんによる生産量の頭打ちが、最も望ましいシナリオでしょう)。

産油国としては、特に、米国などのシェールオイルとの“我慢比べ”です。 OPECの懸念は、価格が上昇すれば、シェールオイルの開発が盛んになるということです。ますます、生産者の動きをコントロールできなくなるということでしょう(日本海にもシェール層があります)。

中国経済の鈍化も影響

世界経済も原油の需要に大きな影響を与えます。特に、中国経済の成長率の鈍化が原油価格の低迷にもつながっています(この原稿は実は四川省の成都で執筆しているのですが、たいていの人は政府のいう成長率を維持できると思っていません。かなり深刻なようです。かなりの経済減速がわかっている李克強は首相を辞任したいが習近平が拒否したという話も伝わっています)。

投機資金の動向

原油価格はトレンドとして下がらないという読みが崩れたことから、投機資金が原油市場から離れていきました。売られすぎの感もありましたが、いったん離れた投機資金は簡単に戻るとも思えません。売り方の巻き戻しというよりは、戻り売りが待っているというところです。

これらの材料が今後、どう変わっていくのかが重要です。 “我慢比べ”大会で考えると、原油生産に頼っている中東諸国・OPEC諸国は不利です。米国等は、原油価格が抑えられることは、シェールオイル関連企業にはマイナスですが、経済全体にとっては悪いことばかりではありません(エネルギー価格が下がることによるプラスも大きい)。

OPECのなかでは、ベネズエラやエクアドルが財政的に厳しい状況となっていて(破綻の可能性さえ出てきました)、生産コストが安いサウジアラビアは、低価格競争にはまだ耐えられることから、石油生産シェアの維持を優先させると思われます。 原油は売られすぎでも、まだ、底を入れたとはいえない状況で、安値を探る展開が続きそうです。

原油価格は1~2月に26ドル台をつけ、それ以降はやや戻り基調となっています。ただ、原油を取り巻く環境に変化はなく、底入れしたというよりは、売られすぎの自律反転の可能性が高いと見ています。ファンド筋の戻り売り等、売りたい玉は残っており、しっかりとした上昇基調に入る前に底固めの時間が必要に思われます。

図表 産油国一覧

産油国一覧
OPEC(13ヵ国) イラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラ(以上、原加盟国)、カタール、リビア、アラブ首長国連邦、アルジェリア、ナイジェリア、アンゴラ、エクアドル(再加盟国)、インドネシア(再加盟国)
非OPEC諸国 米国、英国、中国、ノルウェー、ロシア、メキシコ、など

※ガボン(国)は、脱退したままとなっている。

《執筆者紹介》

林康史(はやしやすし)
立正大学経済学部教授。大阪大学卒。法学修士(東京大学)。メーカー、金融3業態を経て、現職。<著書・訳書>『改定版 基礎から学ぶ デイトレード』、『トレーダーの発想術――マーケットで勝ち残るための70の箴言』(訳)『株式投資 第4版』(共訳)『デイトレード』『マネーの公理』『運とつきあう』(以上、監訳)以上、日経BP社、『戦略的リスク管理入門』(監訳)勁草書房、ほか多数。

【免責事項】

「週刊日産証券C X レポート」( 以下、本情報と略記) は、株式会社市場経済研究所が提供する一定の条件の下で執筆者が作成したレポートです。

利用者は、本情報を利用者ご自身でのみご覧いただくものとし、ご自身の判断と責任においてご利用ください。本情報は一定の情報を提供するものに過ぎず、特定の銘柄、金融商品、商品価格などについての投資・購買に関する助言や勧誘を目的としたものではありません。また、市場経済研究所は、投資助言・代理業を一切行っておりません。

利用者は、本情報に関して、第三者への提供や再配信、再配布、独自に加工すること、複写もしくは加工・印刷したものを第三者に譲渡または使用させることはできません。また、本情報のウェブページへのリンクは禁止します。その他、市場経済研究所が適当でないと判断する行為をした場合には、利用を停止させて頂くことがあります。

本情報の利用にあたり、利用者が故意または過失により、市場経済研究所および当該執筆者に対して、何らかの損害を与えた場合には、市場経済研究所等は損害賠償請求をすることがあります。

TOPへ