日産証券CXレポート

弱材料出尽くし、反転のタイミングを計る金 2016年2月22日(月)

立正大学経済学部教授
林康史

原油の減産は“我慢比べ”

本日から、執筆陣に加わることになりました。

「原油相場について」に加えて、その周りの相場や投資哲学について、予測をお伝えするというよりも、読者が学びやすいように(相場観を自ら構築できるように)、わかりやすく基本的な材料・見方に触れることができればと思っています。

まず、(今年の)当面の材料について整理したいと思います。

OPEC(石油輸出国機構)の減産合意は困難

最大の産油国であるサウジアラビアが同意しない限り、減産合意の話は進まないわけですが、合意形成がなされない理由はー“我慢比べ”です。

減産合意して価格下落を止めることができたとして、恩恵を被るのは、総じて生産コストが高い国です。理由は簡単で、“我慢比べ”に耐え難いからです。最もコストが安いのはサウジアラビアで、バレル当たり4~10ドルと言われています。公共料金への補助金削減等、国民福祉の予算を削ってでも、この我慢比べに耐え抜く決意だろうと思います。

生産コストが総じて高い国のなかでもとりわけ恩恵を被るのは、非OPEC諸国です。減産しなくてよいからです。

原油生産量の4割占める0PEC

ちなみに、石油輸出国機構(OPEC)とは、石油産出国の利益を守る目的の組織で、1960年に設立され、現在、加盟国は13ヵ国です(図表参照)。OPEC全体では、シェールオイルを別にすると、全世界の石油埋蔵量の3分の2、生産量の4割を占めています。

非OPEC諸国は、減産合意には加わらなくても、OPECが勝手に減産合意してくれればよいわけです。特に、米国は、シェールオイルの生産を続けたいので、減産合意を期待をもって待っている。ロシアなども同じく“漁夫の利”狙いということです。非OPEC諸国に対しての“我慢比べ”です。

一枚板でないOPEC

では、OPECは一枚岩かというと、そうではありません。OPEC加盟国同士は、味方でもありますが、同時に、当然、ライバルでもあるという関係にあります。皆が“抜け駆け”狙いということです。脱退し再加盟する国があることもそれを示しています。もともと、本部はオーストリアのウィーンですが、そのこと一つをとっても、それぞれが仲良くないことを示していて、さもありなんという感じです。

イランは、核開発に関して経済制裁を受けていましたが、1月に解除されました。日本の石油元売り会社などでつくる「国際石油交流センター」も7年ぶりに技術協力を再開する方針を決めました。イランでは、製油所の老朽化が課題になっていましたが、経済制裁の解除にともなって、設備の整備も可能になるうえ、石油の販売先も広がるので、生産せざるをえない状況といえます。

サウジアラビアとイランが対立

サウジアラビアとイランの対立も激化しています。宗教対立でもあります(今回は詳細には触れません)が、政治的にもサウジアラビアにとってイランは天敵でもあります。サウジアラビアとイランの断交は、原油価格の上昇を狙った“出来レース”との見方もあるようですが、そんなわかりやすい構造とも思えません。両国の対立は中東全体を揺るがしかねないと思います(ただし、両国も、周辺諸国も、それを望んではいませんが)。

産油国はシェールオイルと"我慢比べ“

米国は、シェールオイルの生産国でもあります。バレル当たり70〜90ドルがコストと言われていましたが、現在は、25~45ドル程度(コストの高い油田では80ドル程度)と言われています。米国とカナダで採掘され、「拡大する米国のシェールオイル生産によって今後5年の世界の石油需要増加分をほとんど賄うことができる」(IEA国際エネルギー機関)とも見られています。米国のシェールオイル関連企業の破たんもありましたが、掘削技術の進歩によってコストは低くなり続けています(ロシアやOPECにとっては、シェールオイル関連企業の破たんによる生産量の頭打ちが、最も望ましいシナリオでしょう)。

産油国としては、特に、米国などのシェールオイルとの“我慢比べ”です。

中国経済の鈍化も影響

世界経済も原油の需要に大きな影響を与えます。特に、中国経済の成長率の鈍化が原油価格の低迷にもつながっています。

投機資金の動向

原油価格はトレンドとして下がらないという読みが崩れたことから、投機資金が原油市場から離れていきました。売られすぎの感もありますが、いったん離れた投機資金は簡単に戻るとも思えません。

これらの材料が今後、どう変わっていくのかが重要です。 “我慢比べ”大会で考えると、原油生産に頼っている中東諸国・OPEC諸国は不利です。米国等は、原油価格が抑えられることは、シェールオイル関連企業にはマイナスですが、経済全体にとっては悪いことばかりではありません(エネルギー価格が下がることによるプラスも大きい)。

OPECのなかでは、ベネズエラやエクアドルが財政的に厳しい状況となっていて、生産コストが安いサウジアラビアは、低価格競争にはまだ耐えられることから、石油生産シェアの維持を優先させると思われます。

“我慢比べ”を終わらせるには、OPECばかりでなく、非OPEC諸国も交渉のテーブルに着くことが必要です。現在、サウジアラビアやカタール、ベネズエラが、我慢比べを早く終わらせたいロシアなどと交渉していますが、妥協案そのものの提示も難しい状況だと思われます。

結論は、原油は売られすぎでも、まだ、底を入れたとはいえない状況で、安値を探る展開が続きそうです。

図表 産油国一覧

産油国一覧
OPEC(13ヵ国) イラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラ(以上、原加盟国)、カタール、リビア、アラブ首長国連邦、アルジェリア、ナイジェリア、アンゴラ、エクアドル(再加盟国)、インドネシア(再加盟国)
非OPEC諸国 米国、英国、中国、ノルウェー、ロシア、メキシコ、など

※ガボン(国)は、脱退したままとなっている。

《執筆者紹介》

林康史(はやしやすし)
立正大学経済学部教授。大阪大学卒。法学修士(東京大学)。メーカー、金融3業態を経て、現職。<著書・訳書>『改定版 基礎から学ぶ デイトレード』、『トレーダーの発想術――マーケットで勝ち残るための70の箴言』(訳)『株式投資 第4版』(共訳)『デイトレード』『マネーの公理』『運とつきあう』(以上、監訳)以上、日経BP社、『戦略的リスク管理入門』(監訳)勁草書房、ほか多数。

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